ドキュメント/設定資料編

Doc#1 「第三世代戦闘騎『ファントム』の次期運用に関する検討」

はじめに


 第三世代戦闘騎「ファントム」は、王立高等魔術研究局の技術供与を受けたマクダーナル魔術学会により設計・開発された。

 王暦687年、新設された王立航空騎士団の主力戦闘騎として200騎の配備が決定。運用開始から10年が経過した697年10月現在でも、外縁部方面隊を中心として、70騎以上の運用が続けられている。


 しかしながら、現在選定が進められている第五世代戦闘騎の実戦配備以降、以下に示す三点から、「ファントム」の継続運用が困難であると結論づける。



・アビオニクスの旧式化


 艦隊航空師団から航空騎士団への再編期に開発された「ファントム」は、史上初の全天候対応型戦闘騎であり、しばしば「初の実用アネンスファリア」と形容される。その所以は、本騎から初めて搭載された「レーダー」機能にある。


 生体の翼龍は、雲中や夜間等、視界が限られた状況にあっても、互いが発する微弱な魔力を感知し、群れを維持することが知られている。「ファントム」のレーダー技術はこの特性を応用したものであり、周辺の戦闘騎、鳥類等の生物、或いは障害物を探知することが可能である。


 しかし、第四世代戦闘騎が充分数普及して以降、レーダー等アビオニクスの旧式化が顕著となっている。現在、航空騎士団における主力である「イーグル」型戦闘騎との比較では––––多少の個体差があるものの––––、レーダーによる探知範囲は概して25%ほど狭く、操縦系の応答速度には15%の遅延があるとされる。これらの課題を解決するため、新型コフィンへの交換・改修が進められているが、その結果として、次の新たな課題が生じている。

 


・ユニットコストの高額化


 現在、アビオニクスの更新と補助魔力装置(AMU)の搭載、レーダー補助装置の内蔵による単座化を目的とした新型コフィンの開発が進められているが、その導入には、一騎あたり9,850,000Gの費用を計上する見込みである。加えて、「ファントム」の基礎設計は技術が未成熟な時点でのものであり、部品点数が多く、整備・点検に多大な費用を要する。そのため、以後五年以上の長期運用を想定した場合、「ヴァイパー」型戦闘騎を新規購入・配備した方が、総じて経費を低く抑えられるのが現状である。



・騎体の老朽化


 「ファントム」の素体となる翼龍には、北部灰鱗種と東部軟鱗種の混血種が用いられる。混血種は非常に早熟であるものの、その反面老化が早く、戦闘騎としての耐用年数は二十年と短い。これは騎体の運用状況によっても増減し、九年間の運用で、実戦が困難なまでに老朽化した個体の事例も報告されている(この課題は第四世代以降、エドワーズ交配法の確立により解消されている)。



 上記した三点に加え、外縁部で多発する█████████事案を鑑みるに、騎体出力・機動性で劣る本騎の次期運用は困難であるものとし、「ヴァイパー」等安価な第四世代戦闘騎への順次置き換えを、ここに提言する。(報告者:王立高等魔術研究局 アレックス=ホフマン)


 


 


 

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