【番外編】 聖誕祭
しなやかな手から、小さな手のひらへと白い包みが渡される。
「神官様、ありがとー!」
赤いリボンでくくられた、包みの中は甘い菓子。神官は子供ににっこり笑い返すと、腕にかけた籠から包みをひとつ取り出して、次の子供に手渡した。
手を叩いたら割れてしまいそうな、からりと晴れた冬の空。もみの木に飾られた金のリボン。冷たい風にさらされながら、どれくらいそうしているだろう。今宵は、神の子の聖誕祭。毎年この日に、村の子供達に焼き菓子を配るのが、神官の役目となっていた。
「神官様、お疲れ様です。ただいま温かいお茶を淹れますね」
「ああサラ、ありがとう」
神官は赤くなった両手の指をすり合わせると、そこにはあっと息をかけ、ゆっくり椅子に腰掛けた。
と、ふらりと魔法使いが現れて、長い爪で暖炉の角をカツンと弾いた。たちまち炉の火は赤く燃え、凍えきった神官の体をふわりと暖かい光が包んだ。神官はくすぐったそうにくすりと笑うと、すぐに「ありがとう」とつぶやいたが、魔法使いは聞こえていないかのように彼の隣を行過ぎた。
「また無償の施しか、偽善者神官。ほとほと暇を持て余すとみえる」
「今日は一年に一度の聖誕祭だもの。子供達が、楽しみに待っている」
音も無くゆらゆらと、熱い紅茶が注がれる。神官は両手でカップを包むように持つと、ふうっと一回息を吹きかけ冷ました後で、ゆっくりそれを口にした。
「大体、焼き菓子作りなんてお前の十八番だろう。少しは手伝ってもいいものを」
途端に魔法使いは馬鹿にしたように高くハッと鼻で笑うと、くるり振り向き長い爪で、神官の鼻の頭をちくんと突付いた。
「神の子の誕生日など知ったことか。我輩が興味があるのはただひとつ、貴様の誕生日だけだ」
「オドラデク……」
揺れる。揺れる。胸のいばら。
忘れる訳が無い。二人が出会ったのは数年前、神官がまだ王子であった頃の、十四歳を祝う祝賀会。あれから幾度も冬を迎え、新しい年が訪れても尚、真紅の花は膨らむばかりで。
神官は頬を染めふわりはにかむと、そっと魔法使いの手を取った。
「オドラデク、僕は、」
「水臭いじゃありませんの、お母様!」
バァン、と高く音を立て、樫の扉が放たれた。そこには頬を膨らませた、竜の娘が立っていた。
「メルセデス」
「子供達にお菓子を配っていたそうじゃありませんの。どうしてあたくしも呼んでくださらなかったの?」
拗ねた口調を作ってみても、その金の瞳は無邪気にきらきら輝いている。神官は思わず小さく噴出すと、テーブルの上に置かれていた菓子の包みを手にとって、娘の両手に握らせた。
「来年にはきっと手伝ってもらうよ。聖誕祭おめでとう」
「神の子の誕生日なんて存じませんわ。あたくしはあたくしと、お父様とお母様、それからサラの誕生日にしか興味ありませんの」
神官はぱちくりと一度大きく目を瞬かせてから、たまらず大きく笑い出した。
大切な人達、大切な時間。ぬくもり。まなざし。笑い声。
愛しい人の数だけ訪れる、一年に一度の大切な日。
「今晩は泊まっていくだろう?メルセデス。きっとオドラデクが、ごちそうを作ってくれるはずだ」
その言葉に娘が魔法使いの顔を見ると、彼はフンと鼻を鳴らして尖ったあごひげを天井に向けたが、特に否定はしなかった。
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