第3話
翌朝。空が白みかかってくる時間帯に起きてしまった。何時もより早いけどスッキリとした目覚めだ。こころなしか身体も軽いような気がする。
今朝は初めて紗月と登校を一緒にするので、遠足前効果で早く起きてしまったが、シャワーを浴びる時間ができたので僥倖と言える。汗の匂いが好きとは言われたけど、やっぱり臭いよりいい香りがしたほうが良いに決まっているからな(当社比)。
昨日コンビニでついでに買ってきたパンを朝食にして、身支度を整えていく。
ピロリン♪ 【通学のお時間です】
母さんが会社でもらってきた丸い形した音声アシスタントが時刻を告げる。
「さ、行くか」
玄関の扉を抜けるまですっかり忘れていたことがありました。
「おはよう、健ちゃん。寝坊しないでちゃんと起きられたみたいだな」
にこやかにそう笑う金髪美少女がそこにいらっしゃいました。あまりにも浮かれすぎていたので忘れてしまっていたようですが、俺とミリは毎朝一緒に歩いて学校までの道を辿っているのです。動揺のあまり心の声が丁寧な言い回しになっておりますが、簡単に申しますと一緒に通学している、ということです。つまりは、エレベーターを降りると紗月と鉢合わせとなります。どうしましょう?
こっちがいろいろ考えているというのにそれを知らずか、知るわけないけど、ミリはエレベーターを呼んでしまう。
「あ、俺忘れも、の……」
チーンと軽い音とともにエレベーターの扉が開く。
「おはよう。健人! ホールに行く前に会っちゃったね!」
朗らかに挨拶してくれる紗月、かわいい。
グギギギギという音が聞こえそうに首をこちらに回してくるミリ、ちょっとコワイ。
完全にフリーズする俺。
……あれ? よく考えたら何も悪いことしてないよね。紗月とは順番は飛ばしてしまったけど、これから関係性は築いて行こうみたいな話はしたし、ミリはただの幼馴染だし。問題らしき問題なくね? 学校では紗月と俺の仲は暫く内緒にしてもらいたいってミリを言いくるめればOKじゃん。ヨシ! ご安全。
「おはよう。なあミリ。俺の彼女(仮)篠田紗月。で、紗月。こいつは四月一日美里、俺ンちのお隣さんで幼馴染」
「おはようございます、四月一日さん。もちろん存じております、同じクラスですものね」
「おはよう、篠田。もちろんウチも知っているよ。まさかあんたがね」
あれ? 互いに挨拶しているだけなのにチリチリした感じするのは気の
「健人、(仮)ってなんかイヤですね。もう昨日はあんなに激しかったのですから(仮)はナシにしましょうよ」
え、朝っぱらからどうしたの?
「は、激しく? どどどういうこと?」
ミリが動揺している。俺も動揺しているぞ。
「ちょっと昨日激しめの運動してな……」
俺の言い訳が辛い!
「もう、恥ずかしですっ。チラ、チラ」
紗月は、恥ずかしいって言いながらミリに太ももや鎖骨とかのキスマークをチラチラと見せている。
「うわああああああ~健ちゃんのばかぁ~死ねっ~もう知らない‼」
ミリはなんか叫びながら走っていってしまった。
確かに朝から見たり聞いたりする話ではなかったけれど、あそこまで動揺して混乱することかなぁ……
あと何で紗月は勝ち誇ったようなドヤ顔なの?
ミリがちょっと心配だったけど、紗月を置いてまで追いかけることもないかと普通に歩いて学校まで辿る。同じ学校の生徒が増えてきたところで紗月には俺が押して歩いていた自転車に乗ってもらって先に学校に行ってもらった。
偶然を装い下駄箱で合流するつもりだ。
教室まで他愛もない話を紗月としながら歩くも妙な注目を浴びる。昨日までモブの俺が大和撫子然とした美しさの紗月と一緒にいるのがおかしのか? やっぱりおかしいのか? ちょっと落ち込む。
「もう、健人ったら大丈夫ですよ。なんと言われても私の彼はあなたしかいません」
小さい声で嬉しいことを言ってきてくれる。
落ち込んでいる場合じゃないな。紗月の隣りにいても誰も文句言えないような男になれば良いんだよな。
教室には紗月とは別々に入ることにした。教室ですっごい目で見られたりしたら流石に頑張ろうと決意しても心折れてしまうかもしれないしな。
教室に入って自分の席にかばんを置くと周りの友だちと挨拶を交わす。モブだけどボッチじゃないから友だちくらいはいるんだよ。
席につくと教室の窓際の後ろの方を見てみる。窓際の一番うしろの席がミリの席だ。
(良かった。ちゃんと席についているようだな)
ミリはいつもなら陽キャな友だちたちと朝っぱらからワイワイキャイキャイ騒がしいのに、今は机に突っ伏している。友だちも遠目に見ているだけで話しかけてもいない。
(今のうちにちょっとフォローしておこうかな)
ミリの席まで行って声をかける。俺はモブだけど金髪美少女のミリと幼馴染なのはクラスの大半の奴らには既知のことなので、近づいて話しかけていても目立たない。
「今朝のはゴメン」
ミリは突っ伏したまま首を左右に振るだけ。
「いや、ショックだよね。いきなり幼馴染の性事情を朝っぱらから見せられたら……」
突如ガバっとミリは立ち上がり、俺の頭をパカンと叩く。
「合ってるけど、違くって! 違くって無いけど合ってもいないの!」
ミリは何がいいたいのかさっぱりわからない事を叫びながら俺の髪の毛をグシャグシャにかき回す。
(これは今日帰ったらちゃんと話さないとだめなやつだな)
「ミリ、今日の夜、
「ううう」
ミリはコクンと頷いた。
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