第55話 VRホラー開始


 慎重にドアを開き、先に灯りで室内を照らして確認をしようとしたときに部屋の奥から、カサカサカサ――――っと、何かが走りまわるような音が聞こえてきた。


 僕の画面端には【聞き耳】の強制成功と浮かび上がった。


 続いて、後ろの二人。珠音とファレナちゃんのダイスが急に転がった。


 ファレナ【聞き耳】《52》判定:失敗。


 珠音【聞き耳】《57》判定:成功。


 大体似た数値なのに、聞き耳ではよくファレナは失敗するようだ。


 判定に成功した僕らは、蠢くモノの正体が視界の端に写り込んできた。


 蜘蛛の様な小さな集合体が灯りに驚いて逃げる様に移動していく、そんな様子だった。


「ひゃうっ⁉」

「う~む、こう見ると気持ち悪いのう」


 多分、このキャラが想像したのであろう映像が映し出された訳だけど、コレは駄目な人にはかなりキツイもんじゃないだろうか……僕も苦手だけどさ。


 SAN値チェックのラインに引っかかったのか、ダイスが勝手に転がり始めた。


 僕の【正気度】《21》判定:成功。

 珠音【正気度】《31》判定:成功。


 悠月・珠音。両者の【正気度】が《1》減少します。


「ど、どうしたの?」

「あぁ~、ちょっとヨクナイ想像しをしちゃっただけだから、気にしないで」


 あの映像を見た時に既に背筋に寒気が走ってるからね。


「なんで片言なの?」

「こまい生き物の集合体が大丈夫なら、想像しても良いのではないか?」


 珠音がちょっと意地悪な感じでファレナちゃんに言うと、物凄い勢いで彼女は首を左右に振って、それ以上は聞きたくないと耳をすぐに塞いだ。


 どうやら、彼女もそう言う感じのは駄目らしい。


「でも、灯りを向けたらすぐに逃げていったから、暗闇で蠢いてた小さい奴等はランタンを使っていれば襲われなさそうだね」


 という事はだ、この部屋は扉を開けば勝手に周りヤツが逃げてったって事かな。


 音がすぐに聞こえなくなってドアを開くが、その部屋はもう何も居なかった。


「はぁ、段々に本気を出してきた」

「驚く姿は可愛かったよ」

「まるで小さい女子のようだったな」

「五月蠅いよ」


 ここも倉庫みたいになってるけど、元々は寝室として使われていたっぽいモノがチラホラと残っているようだった。


 埃をかぶったベッドの上に段ボール箱を置かれていたり、机の上にも同じようにモノが大量に置いてあるのが見て取れる。


 箱には少しだけ虫食いの跡が結構あるけど、それ以外は特に問題はなさそう。


「ここも、物が数多くあるのう」

「物置になっちゃった部屋って感じだもんね」


 そう言いながらも、二人は僕から離れない感じでピッタリと寄り添って動いてくる。


「あの、動きにくいんだけど」


「だってこの部屋のなかには、変なのがたっくさん居たんでしょう」


「こういう場合は固まって動くべきじゃと思うが、違うか?」


 何とも最もらしい事を言っているけど、怖いだけだよね。


「はぁ、わかったけどあんまりくっ付かないでね。動き難いからさ」


「むぅ~、こういう時の悠月ちゃんは冷たいよ~」


「ファレナちゃんはもう少し慎みを持ってください」


 僕はこう見えても男です。


 ゲームの中とはいえども、とういか実際にくっ付いて来てるせいで色々と当たってるの、本当に気付いてほしいんですけど。


 ――見てるんなら助けてよ、スタッフさん達。



 なんて、心の声は届かないようで、本当に彼女のやりたい放題だ。



 珠音なんて、本当に頭の上に乗ってる感じでいるだろう。



 妙に頭が重いんだよ⁉



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