第51話 VRホラー開始


 ここまで来た道は廊下だったはず。個室にそのままつながった扉ではなかった。


「覚え違いって訳じゃあないよね」

「こんな部屋は童も知らんしなぁ」

「せめて、この屋敷のマップでもあれば良いんだけど」


 セーブ部屋にも、歩き回った道中にもマップ何てなかったから間取りも分からない。


「このゲームは分からない事だらけじゃのう」


 僕等が扱うキャラだってどういうモノなんか、全然説明がない。


 技能らしきモノもあるみたいなのに、自分達が持ってる技能が分からない。


 珠音の言う通り、分からない事だらけだ。


「意味不明な家の作りしてるしね~、この屋敷って」


 知らない部屋に出たからには、一応この室内を全員で調べながらファレナちゃんが呟く。


「あ~、もしかしてファレナちゃんって、この手のホラー知らない?」


「えっ! もしかして意味あるの? この変な屋敷の構造って」


 知らない人の方が多いのかな。


 まぁ、僕も果歩姉ぇに見せられた映画を見なかったら知らなかったけど。


「増築を繰り返すお屋敷のお話があってさ」


「ねぇ悠月ちゃん? それって怖い話じゃないよね」


 引き攣った表情で僕を見てくるファレナちゃんは、少し睨むような目になっている。


「この状態で怖い話とは、お主は馬鹿なのか?」


 珠音もジト目で見てくる。


 まさにホラー舞台の真っ只中に居るのに、怖い話を始めるのは確かにバカげている。


 でも、知っておいた方が良い気がするんだよね。


 そんな考えをしていると、急にダイスが勝手に転がってしまう。


「わぁ⁉ なになにっ⁉」


 技能:【オカルト】と書かれている。

 ダイスの目は《38》判定:成功。


 そこまで表示されると、急に目の前に資料の様な映像が出現した。


「ひにゃ⁉」


 しかも、よりによって凄く薄暗いホラーシーン付きでだ。


「なによ! どうしたの悠月ちゃん⁉」

「お、おい、大丈夫かえ」

「ちょ、ちょっとビックリしただけだから、大丈夫だにゃ」


 まだ驚いた影響か、噛んじゃったじゃないか。


「「にゃ?」」


 二人が揃って僕が噛んでしまった部分にツッコミを入れてくる。


「コホンっ! 大丈夫だから」


 咳ばらいをして、忘れるようにと促すけど。二人は物凄く和んだ様子だった。


「にょだってさ、可愛かったね」


「うむ、恥ずかしがってる仕草まで乙女じゃな」


 横目でチラチラと僕をからかうように喋っている二人に少しムカついた。


 ――よし、決めた。


 僕は知っているから、別にそこまで怖くないし。


 知っているからこその恐怖もあるだろう。この先、同じ恐怖を味わって貰おうじゃない。


 僕だけが知っているなんて、不公平だろう。


「この屋敷みたいに増築を繰り返したお屋敷があったんだって――」


「ちょちょ、なんで急に語り始めちゃってるの!」


「そうじゃ、なぜ更に怖くする必要があるのじゃ⁉」


 物凄く焦りだした二人を見て、してやったりと、笑みが零れてしまう。




【うぁ~、仕返しかだよ】


【良い笑顔だ】


【案外にも、怖いモノ好きなのかな?】


【じゃなきゃ、あのホラー話は知らないでしょ】



【日本にもあるらしいけどね~】


【……マジ】


【といか、これ俺らも聞かされてんだよな】


【喋りが上手いの止めて、ホントに怖いから!】



【誰か悠月ちゃんを止めろ~】




 コメントに居る君たちも道連れだ。一緒にホラーを楽しもうじゃないか。



 

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