第45話 初VRホラー開始


 休憩室に次々と人が集まって来た。


 ちょっとイケメンのお兄さんは、物凄く疲れた表情で机に突っ伏して動かない。


 猫目で楓さんに絡んでいる女性が一人。


 ノートパソコンを開いて、黙々と何かタイピングしてる女の子が一人。


 そして、眼鏡を掛けていそうな僕と同じ場所でゲームをしていた先輩が一人。


「役者は揃ってるね」


 父さんが最後に休憩室に入ってきて、室内を見回し全員の顔を確認しながら言う。


「ユウビちゃん、説明はしてくれるんだろうな?」


 イケメンお兄さんが不貞腐れながら、父さんに突っ掛かっている。


「安心して。これはスタッフ含めてトップも認めてる事だからさ」


「デビュー配信の翌日にコラボって何考えてるか、簡単にでも説明を要求する」


「普通はある程度の期間を置いてから、絡むのが普通だにゃ~」


「新人ちゃん達も知らなかったみたいだしな」


 皆が一斉に僕等を見てきた。


「あはは、まぁこのメンバーでしばらくは固定だよ。ただのホラー系のゲームは【エクソシズム】のメンバーだけでプレーするんだけど、TRPGではこのメンツが揃うと思ってね」


「驚かし要員ってこと?」


 ノートパソコンを弄る手を止めて、女の子が父さんを見つめる。


「ちょっと違うな。君達にも今後は同じような企画をして貰う事が増えるだろうからね。色々と知っておいて欲しいから参加してもらっている。流石に新人の彼等をいきなり他所の企画に参加させる訳には行かない。元々、興味はあったんだし良い機会だったろう」


 先輩たちが其々に考え込んで黙ってしまう。


 バーチャルライバーとVRホラーのTRPGのゲームが最近になって、凄い勢いで技術が発展してきた事から、遅れる訳に行かないと我が社も参入という運びになった。


 ただここで問題になったのが、経験者が居ない事だ。


 話には聞いたことがある。配信でちょっと見たことがある。その程度の知識しかないメンバーしか居なかったことから、今回の募集に繋がったという訳だ。


「なるほどね~、まぁこのメンバーなら確かに変に騒ぐファンはほぼ居ないもんね」


「それに最初から絡んでいれば、バカ騒ぎする人も極小数だね」


「最悪、団長を燃やせば済むしな」


「俺を火事除けに使うんじゃねぇ」


 父さんがよっぽと信頼できる人達なんだろう。


 笑いながら結構に凄い内容を言っている気がするんだけど。


「それでも、私達に少しくらい情報をくれても良かったのでは?」


「いや~、それについては申し訳ないとしか言えないですね」


 父さんの隣にいたマネージャーさんが頭を下げて謝ってくれる。


 なんでも、この企画を担当していた人が風邪でぶっ倒れたらしい。


 他のメンバーで回してギリギリ状態で企画を完成させていったようだ。


 新人である僕等の初配信は結構な綱渡り状況だったらしい。


「それは分かったけど、この企画って社長が絡んでるでしょ~」


 猫目の先輩が鋭くマネージャーを睨む。


「……ノーコメントで」


「無理ムリ。あの人って誰に対してもサプライズ好きだから企画立ち上げから分かりやす過ぎるって、バレバレなんだからさ、はいちゃえよ」


「新人の子達に良い格好したかったのは分かるけど、流石に自分がぶっ倒れてちゃね」


 眼鏡先輩がため息交じりに肩を落としている。


「えっ、これって社長の?」


「あ~、あの人ならやりそうだな」


「困った人ですね」


 僕は会ったことも無いから分からないんだけどね。



「きっと、誰かさんに一番会いたかったのかと思うけど」



 ノートパソコンで作業しながらも女の子は、チラチラと僕を見て言う。



 その言葉に、皆が「あ~」という声を揃えていた。




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