第38話 初VRホラー開始
「懐中電灯も無いし、とにかく進むしかないか」
壁に手を付けながら、ゆっくりと足元を確かめるように上っていく。
「とくに、変なものはなさそうじゃぞ」
僕よりも先に珠音が顔を出して、二階の部屋を見回している。自分もすぐ後に続いて覗き見るけど確かに何もない。
タンスも無ければベッドも無い。
あるのは絨毯が敷かれているくらいだろう。
「灯りを付けるスイッチとか無いのかな」
「暗くて良く見えんのう」
辛うじて見えるのは、雷雲が光った時くらい。
「二階に上がった瞬間に外の天気が更に悪くなるって嫌だよね」
「そうじゃのう……わふっ⁉」
近くに落ちた様な雷の音が響き、窓ガラスを揺らす。
モノが無い分ある易いから良いんだけど、とにかく廊下にでる為に扉を探す。
壁にそって歩き、階段と反対方向に辿り着いてようやくドアノブに手を掛けた。
『ふふふ、さぁお待ちかねのダイスロールだ』
眼鏡先輩が急に現れて、勝手に僕らのダイスを転がしてしまう。
しかも今回のは【幸運】という、判定を使うらしい。
「うぁ《95》だって」
「我は《77》じゃぞ、ゾロ目じゃ」
僕等がダイスの出目を言うと、眼鏡先輩は物凄く嬉しそうな口角を釣り上げて笑う。
ただ、何も言わずに眼鏡先輩は煙になって消えてしまう。
「何だったんだろう?」
「分からん」
何の言葉を掛ける事無く消えた先輩に首を傾げながら、ドアノブを回してドアを引く。
先輩の意味不明な行動に忘れていた。
僕等はダイスの結果をちゃんと見て居なかった。
「なにかいっーー⁉」
軽く引っ張っただけ、それなに誰かがドアを思いっきり押したかのような勢いで開き、僕の体は後ろへと飛ばされた。
「いや~、びっくりした」
部屋の中央で尻餅をついて、起き上がろうと絨毯に手を付いた時に違和感を感じだ。
耳元で聞こえた、手の付いた瞬間にビチョっと水っぽい音がしたのだ。
「悠月~、大丈夫か?」
心配そうに覗く珠音を見ながらも、自分の手を見てみる。
最初は暗くって分からなかった。
廊下の光が徐々に手元を照らすと真っ赤に染まった手が目の前にあった。
「うぁっ! これなに?」
少し粘り気がある液体で赤い血の様な匂いもしてきた。
「わふっ? 何か振って……雨漏りかのう?」
珠音と僕の顔に水滴が垂れてきたので、反射的に上を向いてしまった。
僕も珠音もヒュッと息を呑みこんだ。
全身に寒気が一瞬で生き渡ったようで、背筋が寒くなってくる。
天井には人が貼り付けにあったかのような跡が残っていた、人型のシミが広がっているのが、薄暗い中でも確認できてしまった。
言葉を失った僕等に反応するように【正気度】で勝手にダイスが回っていた。
出た目は《21》と《43》で両者成功と出たが、SAN値は1減少と書かれている。
『ようやく決まったな、正気度ロールに成功したのは気に食わなかったがな』
ケタケタと僕等を指さしながら笑っているが、眼鏡先輩は天井のシミを見ない様にしているっぽいのがちょっと面白かった。
『SAN値が一定値下がると、発狂ロールをして貰うからな』
「発狂ロール?」
「何じゃそれは?」
『まぁ罰ゲームみたいなもんだ。楽しみだなぁ~』
そう言って高笑いを上げた時に、上を見てしまった眼鏡先輩は小さく悲鳴を上げた。
その瞬間に、眼鏡先輩のダイスが飛び出して空中で転がっていく。
『なんでっ⁉』
しかも《88》と失敗って表示されている。
「ちょっと~、俺は今回関係ないじゃん⁉」
眼鏡先輩の三角形の小さいダイスが回って《4》減少したらしい。
『ギャー――⁉』
何が見えたのか知らないけど、物凄い甲高い声をだして消えていった。
「ぷっくく……早く、ファレナを探さないとね」
「そうじゃな」
見なかった事にして、部屋を出る。
二人で笑いを堪えながら、頑張った。
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