第32話 初VRホラー開始




 何もなかった一の部屋を出て他の部屋に行こうと廊下に出た時だった。


「わっ! なにっ⁉」

「むぅ~、また勝手に転がったのう」


 ダイスが地面に転がって勝手に数字が表示される。

 珠音が《77》で僕が《72》という数字が出た。


 振られた技能は【聞き耳】の判定だった。


 珠音が《失敗》、僕は《成功》と表示される。


 ==どういう事だろう。数値的に、ほぼ一緒なはずなのに成功と失敗に判れた。


「なんの判定っ――」


 一の部屋はさっき何もなかった部屋のはず。


「どうしたのじゃ?」


 真後ろにある一の部屋から、物音が聞こえたのだ。


「――気のせい?」


 確かめようと耳をドアに当ててみると、確かに物音が聞こえてくる。



 トットットットット――――

 コンコンッ コン、コンコン――――

 パタンッ ダンッ――




 何か締まる音だったり、足跡の様な歩く音だったり、叩く様な音が聞こえる。


「さっきまで何も聞こえなかったのに、なんで?」


「さっきからどうしたのじゃ、その部屋は何もなかったであろう」


 かなりの音でなっていると思うのだが、珠音には何にも聞こえていないらしい。


 自分の鼓動が聞こえている様な、心拍音が耳元から流れてくる。


「ふ~、何にも聞こえないの?」

「わふぅ? 聞こえんな」

「僕にはけっこうハッキリと聞こえてるんだけど」


 また一の部屋のノブを掴み、少しだけ開いて部屋の中を覗く。


「やはり何もないのじゃ」

「う~ん、本当に聞こえたんだよ」


 一緒になって覗いた室内にはさっきと同じで、とくに変な部分は見当たらない。


「別に疑っている訳じゃ無いのだが……ん?」

「なに、どうしたの?」

「いや、気のせい……かの」


 ドアを開けっ放しにして、廊下から室内を眺めていると何やら珠音が首を傾げ始めた。


「もう、怖い感じの止めてよね」

「ちょっと気になったというか、違和感があっただけじゃぞ」

「そういうのも気持ち悪いんだってば」


 意味の分からない不気味さって後々まで引き摺っていきそうで怖いんだよ。


 するとまた強制的にダイスが僕らの前で転がり始める。


 コレも一々僕の恐怖心を煽ってくるんだけど、本当に心臓に悪いね。


 僕は《87》で珠音が《31》と出た。


 数値的に僕が失敗で、珠音が成功なのだろうか。

 いまいち、この出目が成功か失敗かというのが分からない。


 すぐに結果が表示されると、僕が《失敗》で珠音が《成功》らしい。


「あぁ、なるほどのう……違和感の正体が分かったぞ」


「珠音の画面には何か表示されたの?」


「うむ、我が出る時は開けた戸や引き出しなどがそのままだったのじゃ、しかし今は全てが綺麗に閉じられておる」


「……珠音は閉めてなかったんだ」


「特に何もめぼしいものなど入っとらんかったからのう」


 そういう気味が悪い感じの事を一々知らせなくても良いのに。


「はぁ、もう良いや次の部屋を見ようか」


 そう僕が言って隣の二番と書かれた部屋に行こうとした時だった。


 一番の部屋のドアが建付けが悪くなったかの様にギギッキィ~~と音を立てて閉まった。


「ひぅっ⁉」

「わふっ⁉」


 僕も珠音も一番の部屋が閉まる瞬間。

 

 室内から何か黒い人影が覗くような目がハッキリと見えてしまった。



【正気度ロール】開始。



 十面ダイスが自分の目の間で勝手に回転し始める。


 僕は《13》と出て。

 珠音が《26》と表示される。



『ちぇ~、二人とも成功かよ……正気度の減少は無しか』




 何とも悔しそうな眼鏡先輩悪魔の声が、僕らの耳に聞こえてくる。




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