第30話 初VRホラー開始
「ファレナちゃんはどうやって上に行ったの?」
「分からないの、降りる場所を探してるんだけどっ――」
急にファレナちゃんが急に落ち着きがなくなり、二階の廊下をキョロキョロと見回し始めて、ゆっくりと僕達から遠ざかっている。
「なんじゃ? ドタドタと五月蠅いのう」
「何かそっちに居るの?」
「わ、分からないの……何にも居ないのに音だけがどんどん近付いてきてる気がするの」
天井や床、後ろをチラチラと気にしている。
聞こえてくる音も反響しているかのようで、どっから聞こえてくるかが分からない。
不安定に積み上げられた家具のせいで進めないし、とにかく他の場所から二階へ上がる方法を探すしかないかな。
「とにかく僕も上に行く方法を探してみるよ」
「うぅ、早く来てよ~。それに今は私の体が勝手に動いたりするから大変なの」
「勝手にって、それは変じゃろう?」
『そうでもないさ、今は自分が半分のコントロールを得ているからね』
『お前、何してん』
丸い目の様な機械に乗った小っちゃい人がケラケラと笑っている。
「半分って自分でも動けるんだよね?」
「うん、偶に邪魔されたり。無理やり怖い所に行かされたり、鍵穴を覗かされたりするけど」
「何とも奇妙な状態じゃな」
「お前もそのうちにやって来そうで怖いんだけど」
チラッと横目で珠音を見る。
「我は悪霊ではないと、何度も言うとろうに……出来そうではあるがな」
ちょっと考える素振りをして、僕をジッと眺めた後にスーッと視線を逸らしながら恐ろしい事を口にしやがった。
「やらないでね」
ヒクつく頬を感じながら珠音に言うが、こっちを向くことなく。
「善処しよう」
短く、それだけしか言わなかった。
「とにかく、私は逃げ回りながら二階を散策してみる」
「わかった、僕は何とか二階までの道を探してみるよ」
「我も居るからな、すぐにファレナの場所まで行ってみせよう」
徐々に音が大きくなってきている。
「ほんと、早く来てね」
それだけ言ってファレナは駆け足で屋敷の奥へと行ってしまった。
ファレナちゃんが屋敷の奥へと行ってしまってから、さっきまで鳴り響いていた音がいつの間にか聞こえなくなっていた。
「急いだほうが良いかもね」
「音が聞こえなくなったの……ファレナを狙っておるのか?」
「どうだろう? 分かんないけどファレナちゃんを追ってる感じなのは確かだと思う」
「何処から調べるのじゃ?」
「ん~、どっち行きたい? いっせーので行きたい方を指そう」
掛け声をかけ、同時に行きたい方を指した。
入口から右を僕が指すと同時に、反対方向を珠音が選ぶ。
「よし、ダイスで決めよう」
「よかろう《50》以下なら我のほうじゃぞ」
「じゃあ以上なら僕が選んだ方ね」
手の中でダイスを転がして、その場に投げる。
「ふふ、女神たる我を選ぶのじゃぞ」
「……やっぱ悪霊じゃないのか? 《88》だったぞ」
「なにっ!」
腰に手を当てた様に偉ぶっていた珠音だけど、ダイスの出目は僕の方を選んでいる。
そんな悔しそうに僕を見られても困るんだけど。
「イカサマをした訳ではないのか?」
「出来ないでしょう」
「むぅ~、納得いかんのじゃ」
「はいはい、神様の言う通りって事で早く行くよ」
「それならば女神が言うた方へ、なぜ行かんのじゃ⁉」
ギャアギャアと喚きながらも、しっかりと僕の後をついて来ている。
何だかんだ言っても、決めた事にはちゃんと従ってくれるのね。
そんな可愛らしい相棒と共に、入り口から右側の廊下を探索しようと歩き出す。
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