第27話 初VRホラー開始
「それじゃあ1D100のダイスを振って貰いましょう」
「振る? 転がせばよいのか?」
手元に渡されたダイスを珠音が勝手に転がしてしまう。
「あっ! バカ勝手に振るなよ⁉」
慌てて拾おうとしたけど、僕の手はダイスをすり抜けて勝手に転がって行ってしまう。
「もう振ってしまったぞ」
「ダイスに触れなかったんだけど!」
「それはそうだろう。さぁ、次は君の番だぞ。潔くダイスロールをしなさい」
自分のダイスしか触れないって事だろう。珠音の手元にはさっき転がしたダイスが戻ってきている様で、興味深そうに先ほど振ったダイスで遊んでいる。
一度だけ右手の親指で真上に弾き飛ばしてみると、ちゃんとその軌道に沿って飛ぶ。
「凄いね、このダイスどうなってるんだろう」
「投げてもすぐに戻って来るぞ!」
地面に落とさない様にキャッチする事も可能だった。
凄いな、手元にもちゃんと感覚がある。いや、本当に手に持ってるんだろうな。
連動して動いているんだと思う。
グローブ越しとはいえどちゃんと感触もある。
ちなみにコントローラは、いま左手に巻き付けられているようだ。
スタッフさんが持たせてくれているからね、何と言うかちょっとした違和感があるね。
自分では何も見えていない感じだからしょうがないんだけど、ゲーム画面だけは見えてるっていう不思議な感覚だ。
「どうした? 怖気づいてしまったのかな?」
「何に使うのかイマイチ分からなけど、仕方ないかな」
僕も珠音に負けない様に、ダイスを投げる。
「……なるほどね」
ゴム紐で繋がってるのか。
微かだけど伸び縮みしている紐が手首にあたっている。
「タマちゃん【55】悠月君は【33】判定は……《成功》か」
一枚の紙を見るような仕草で立ち止まり、すぐに顔を上げて手を空に翳す。
「コレで何が決まるんですか?」
いったい、このダイスで何をしたいんだか、さっぱり分からない。
「上手く本の世界へ飛べるかどうかだ。失敗すればもちろんペナルティとして、不利な位置からのスター
トとなるぞ」
「それは、嫌な運試しでしたね」
「それでは、ご分を祈っておりますよ。頑張って俺達を楽しませてくれよ」
「俺達?」
「なに、行けば解るさ。ワレを失望させてくれるなよ」
ん? 一人称が変わった? 俺達と言ったり、ワレって言ったりキャラが定まってないのかな? あれ? でも先輩はずっと俺だったし……ん~、まぁ良いか。
先輩は言いたい事を言い終えたのか、煙の様に消えてしまった。
「ぬぉ⁉ 悠月‼ 本を見てみぃ」
「わわっと、どうしたんだよ?」
「ほれアレじゃアレ」
ボロボロの屋敷の絵を見てみると、何か小さい影が動いているのが見えた。
「何か居るのかな?」
「絵が動くと言うの実に奇妙時やな」
「珠音からしたら、全部が初めて見るモノじゃないのかと思えてくる」
本を良く調べようと近付くと、少しづつだが音が聞こえてきた。
『いやぁ~~、もうナニここ、ジヤヴォールだよ先輩』
『ははは、悪魔と来たか。何を言う私は優しい天使ではないかね』
『ангелはこんな事はしないよ~』
『こんなに可愛い先輩だと言うのになぁ』
『じゃあ天使の皮を被った悪魔ねっ!』
『まったく、酷い言われようだね。先輩ショックでもっと探索したくなっちゃった』
『嫌ですよ~、動かさないで! ダメダメダメ、そっちに行っちゃダメねっ!』
『そうは言ってもな、気になるではないか?』
『音が聞こえてるでしょう、わざわざ向かわなくったって良いでしょう』
『何を言う、こういう事こそ調べなくては謎の解明に繋がらないではないかい?』
『もう、誰か助けて~』
そのまま影は廊下を突っ切る様に走って行ってしまった。
「今の声って、ファレナかのう?」
「そうだね、あともう一人要るっぽいけど……えっ? この屋敷に入ってかなきゃダメ?」
薄暗く気持ちの悪い雰囲気が屋敷を囲っているというのに。ここへ自ら飛び込めとは、僕は別に勇者でもなければ、エクソシストでもないんだけどな
「どうしたんだい、早く行かないと彼女がゲームオーバーになっちゃうよ」
姿を消したはずの先輩の声が天井から響く様に聞こえてきた」
「お、男は度胸だもん。よし頑張ってファレナちゃんを救いに行くぞ」
胸の前で両手を握って、怖いと思う気持ちを抑え込む。
「う~む、その姿は程遠いの~」
「何言ってるの?」
「いやいや、何でもない。はよう助けに行ってやろうぞ」
屋敷の見開きページに触れると、池に落ちた雫の様に波紋が輪になって広がっていく。
手は水に浸かる様に吸い込まれていった。
本を触ったと言うよりも、水面に手を突っ込んだ感じだろう。
自分の手が触れている部分は白く光って、今にも僕を絵の中へ引っ張ろうとしている。そんな感じでどんどんと光が強くなっていった。
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