第26話 初VRホラー開始



 薄暗い川と祠に透けた人が幾人かというタイトル絵に、音楽が不安を掻き立てるような静かなものだった。


 そして日常音が入って来るのだけど、何処かの森だとは思う。


 小川の流れる音と木々の葉が擦れているよな騒めき。


 目の前に見えているカーソルが勝手に動いて、スタートの場所で止まってから光る。


「珠音、スタート押したよね?」


「うむ押したの……初めの絵と全然違うようじゃがな?」


 目の間に出てきたのは一冊の巨大な本だった。


 開いた状態で映画館のスクリーンくらいはあるだろう。そこには風景が三か所。


「和風の家っぽいのと、廃墟ビル街、駅地下のショッピングモールかな」


 描かれた風景はどれも色が無く、モノクロ絵だった。


「選択できるようじゃぞ? 三つの内どれが良い?」


 珠音が選択した絵が色付いて見える。


 どれも夜がモチーフなのか、薄暗い印象で建物の全てが廃墟やら廃屋で見てるだけで精神がすり減りそうだ。


 いきなり怖い絵とかじゃなくって良かったけど。


「悠月よ他に何かないのか?」


「他って言われてもな~、映画館ぽく後ろに座席が壇上に並んでるくらいだね」


「とにかく、この絵の部分を選択するしかないということじゃな」


「みたいだね、どうしようか?」


「この右下が開いているのが気になるのじゃ」


 右上に掛かれた絵が和風建築の屋敷が描かれていて、左上が廃墟ビル街、左下が駅地下のショッピングモールと言う感じで並んでいる。


「多分あれだよ、この三つをクリアすると右下に絵が出てくるんじゃない?」


「ほう、クリア条件の解除とかいうヤツじゃな。この放送が終わったらリベンジしよう」


 妙に戦闘機のゲームにハマってたからね。


 そんなに空を飛べるのが楽しかったのかな。


「せめて戦闘機はまともに動かせるようになってよね」


 コントローラ設定をしてなかったからというのもあるけど、上下逆だったせいで最初のステージもクリアできなかったのは笑ったね。


「コレをクリアしたら、我は成長しておるよ」


「そうだと良いけど」


「信用ないのう、適当に選択しても良いかの?」


「任せるよ……どれも怖そうで嫌だし」


「じゃあこの屋敷に行くかの」


 矢印のポインターが和風建築の屋敷へ向かって止まる。


 色頭いて絵に珠音が選択コマンドを押したのか【はい】か【いいえ】の選択が出てきた。


「それじゃあ始めるのじゃ」


 大きな本のページがペラペラと一枚一枚とページが捲られていく。


 本を捲る音が数秒ほど続いて、ようやく止まると選んだ時の絵とは違う開き絵が一瞬だけだが見えた。綺麗な屋敷の絵で緑が生い茂った庭とかも描かれていた気がした。


「はぁ~い、選択したね~」


 この声は一緒に居た先輩かな、声のテンションがめちゃくちゃ高いけど。


 ミニチュアの真っ白な甲冑を着た眼鏡のイケメンが画面端に写っている。


「ぬ? なんじゃ我もコレを付けるのかぇ?」


 スタッフと言うよりもメイドさんだろうか? 何かを珠音に渡しているようだ。


「おぉ、悠月~、我も来たぞ」

「悪霊になって来たのか?」

「悪霊ではなく女神じゃと言うとるのにな~」

「魂だけの状態じゃあな~」


「ぬ? 可愛くないかのう、子犬っぽい姿の魂じゃぞ。こうやって擦り寄ってやろうか」


 VRゴーグルが当たらないよう、器用に僕の頬にすり寄ってきた。


「わわ、もうバカ~、急に近付くなって危ないだろう」


 ほっぺをピッタリとくっつけてスリスリしてくるからVRゴーグルが当たらないかとか、凄く心配になる。


「人肌は温かくて良いのう」


「はぁ、僕は冷たいんだけど」


 珠音がジャレついて来るのを宥めようとしていると、何度も咳払いをしてアピールしてくる先輩の姿があった。


「んんっ! 人前でイチャイチャしないで貰えるかね。実にふしだらでケシカラン行為だ」


「なんじゃ、せっかく楽しんでおったのに」


「楽しむなって、早く進むぞ」


「そこっ! 先輩を無視しないようにお願いしたい」


 ビシッと僕達を指さしてくる。


「早くこの姿から戻りたいもので、すいません」


「良いではないか、可愛いぞ~」


「視聴者には見えてないだろうけどね、僕は今現在、メイド服なるモノを着せられてるの、早く今日の配信を終わりたいの……ゲームの中でもスカートを穿いてんだぞ」


「君は、女の子ではないのかね?」


「僕は男だ、何処をどう見たら女の子に見えるんだよ⁉」


「すまない、何処をどう見ても女の子にしか見えない」


「見えんな~」

「珠音、黙ってようか」



「まっその話しは追々していくとして、コレを君に授けよう」


 眼鏡先輩が何やらいくつか種類の違うダイスを渡してきた。



「先輩、なんですか、コレ?」



「なにって、ダイスだよ」



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