第25話 初VRホラー開始
「なんで僕らはこんな事になっているのでしょうか?」
画面端に見えるコメント欄からは。
【いや知らん】
【始まったばっかりで何をボヤいている?】
【知らんしな】
【隣に居んの服団長じゃね?】
【副団長はホラーってダメじゃなかった?】
【ていうか、さっきから蹲って動かないじゃん】
【もう既に怖がってんのかよ、草】
なんてコメントが大量に流れている。
「不安じゃのう、このコントローラと言うのにまだ慣れておらんぞ」
スタッフさん達にVRヘッドを付けて貰ったけど、まだゴーグルは付けてない。
「珠音さんや、不安なのは僕なんだよね。自分で動かせない恐怖ったらないよ」
自分の手元には何も持っていないのだ。
僕が持つはずのコントローラを持っている状態だ。
「何を言うとる、動かせるじゃなろう」
「そりゃ首振れば周りは見回せるけどね、見回せるかけだからね。すっごい違和感があるんだよ、自分で移動が出来ないって」
色んな場所を見ることは出来ても、逃げ出せないという状況だ。
「ん~、昼間にやったゲームの事を思い出してほしいのじゃ。まるで生まれたての動物の様にあっちへコロコロどっかへコロコロと」
昼間にやったゲームでは、僕も珠音も酔ったりしなかった。
けど、珠音のゲームセンスは皆無と言って良いだろう。
少しでもパニックになると、自分の意思とは別の方向へと勝手に向かってしまうらしい。
「コレはただ歩くだけだから、ちょうど良いだろう」
「オバケが出なければのう」
自分も変わらない存在のくせによく言うよ。
「悪霊のお前が幽霊を怖がるなよ」
そのせいで先輩がさっきから角っ子に籠って動かない。
「あんな恐ろしいモノは誰が見ても怖いじゃろう」
「ゲームのパッケージで驚くって……先が思いやられるな」
「お主も驚いていたくせに」
僕らが言い合いをしていると、角っ子に居た先輩が混乱した様子でこっちへくる。
「そろそろ始める……はぁはぁ、初めてしまえばコワクナイ」
目がグルグルして、視点が定まっていない。
自身に暗示をかける様に、「ゆめ、コレは、ゆめ」とぶつくさ言っている。
「あの~、先輩? 本当にこの状態でやるんですかね」
もう色んな意味でこの状況と言うしかない。
「副団長殿はやらぬのか?」
「やらないね~。そんな怖いゲームをやるなんて正気じゃないね」
やけくそ気味に珠音の言葉に速攻で返す。
「……そんなに怖いんですか?」
「いや小生がホラー系が苦手と言うだけだ。安心して欲しい、コメントは拾うから」
先輩としての威厳を見せたいのか、しっかりと立って決め顔で言うが、足は笑っている。
もう生まれたての小鹿の様にプルプルしている。
コレでホラーゲームを開始したら、気絶するんじゃないだろうか? 大丈夫かな。
「それはゲーム画面は見ないと?」
「…………ふっ、そんな訳ないじゃないか」
何処か遠くを見ながら答えてくれる
「こ奴、全く顔を合わせんぞ」
「遠くを見ないでくださ~い。こっち、こっち見て」
絶対に僕達の方は見ない様だ。
回り込んでもすぐに別の方角を向いてしまう。
「そもそもな、こんな企画自体が間違いなんだよ。なにホラゲを中心にやってくって、マジ逃げてたいんだけど、むしろほっといて俺だけ居なくなってもバレないだろう」
マイクが口元にあるからブツブツと呟く様に言っても、全て配信に拾われている。
「全部放送に乗ってますよ~」
「はっ! しまった」
気付いてなかったのか。
「ここに居る男共は全員が情けない奴ばっかりじゃのう」
「聞き捨てなりませんね、小生の何処が卑怯で臆病者だと言うのでしょう」
珠音が見えないからって、僕に向かって当たらないで欲しいんだけど。
「誰も言ってません」
「誰も言ってないのう」
「コメントには沢山書かれているんだよ⁉」
「情緒不安定な先輩なんだね」
「裏表が激しいだけではないか?」
「新人に速攻私の性格がバレたぞ、どうしてくれる⁉」
それからというモノ、僕の配信に来ているリスナーたちと揉め始めた。
スタッフさんからはカンペで「あの人の芸風です、気にせず初めて」と書かれている。
「猫かぶりが出来ない先輩なんだね」
「薄い化けの皮じゃのう」
「着ぐるみ並みに着こまないとダメだね、きっと」
「着ぐるみとは何ぞや?」
「ぬいぐるみの様な人サイズくらいで、その人形の中に入る的なヤツだよ」
「おぉ、お主の部屋に大量にあった可愛い人形共か……もう着こんでも無駄じゃろう」
「そだね……取りあえず、やってみよう、このゲーム」
「ぬぅ~、怖いから近ぅ寄れ」
「はいはい、膝の上に乗って良いから。その代わりにゆっくり動かしてよ」
「安心せよ、そもそもが早く動かせん」
「それもそっか」
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