第24話 其々の初実況:ウルラ


  ==【視点:ウルラ】==



「さぁやるよ、やるかんね」


 手元が震えていて、覇気のない声を一生懸命に張り上げるポンコツ騎士団長。


「先輩何でこの作品を選んだよ。バカじゃねぇの」


「うるせぇ、勝負じゃこら⁉ ひぃ! バカバカバカなんか来てるって」


 二期生の先輩方に紛れて、初期メンバーのキッグ先輩が居た。


 何でもデビュー時の余波から、騎士団長は交代的な悪乗りハトが飛んでったらしい。


「早く逃げて下さいよ‼ い~やぁあぁ⁉ こっちに来させないで倒せよ先輩」


 戦うと言っても武器が無いから、素手で殴るしかないんだけど。


「ばっか無理だって、違うのが来たって、逃げろ逃げろ⁉」


 二人でその場から一生懸命に逃げ出す。


「やぁ~もうやぁ~だ~。ひっ⁉ はぁはぁはぁ、なに逃げて……こっち来た、こっちに来てるから⁉ 早く何とかしてよ」


 すぐ近くに横穴があったので、自分はすぐさま飛び込んだ。


「だから逃げろって、なんで向かって行こうとしてんだよ!」


 真上から嫌な音が聞こえてくる。


「してない、してないもん」


 虫の関節音なのか、全身に鳥肌が立った。


 脱兎のごとくその場から一目散に離れる。


「もんじゃねぇんだよ。バカこっちに引き連れてくんじゃねぇよ」


「やぁ~も~。わぁ⁉ いやぁやゃあやぁぁあ‼」


 先輩の隣を駆け抜けて、後ろから追ってくるヤツを振り切って逃げる。


「何一人で一目散に逃げてんだよ⁉ 助けろって死んじゃうから⁉」


「無理無理無理ムリだもん⁉」


 振り返る事もせずに、自分はまっすぐ走っていく。


「食われっから、何とかして‼」


 頭に乗った蜘蛛と格闘しながら、こっちに向かってきた。


 この先輩、バカじゃないの! 蜘蛛とかこっちに連れて来ないでよ。


「やゃ~だ~、近付けないで近付かないで、気持ち悪い⁉」


「ちょっとそれ別の意味に聞こえっから。もうちょっとマシな言い回しにして」


 更に近付こうとしてきたので、思わず先輩を攻撃してしまう。


「来ないでよ変態っ⁉」


 殴られた反動で蜘蛛が後ろに吹っ飛んでいく。


「ひどっ! って、増える増えてるから」


「もうこっから出ない、絶対に出ないからな」


「バカ野郎、進まないだろうが⁉ てか、マジ怖いんだって」


「虫が人より大きくなったら勝てる訳ないじゃん」


「せめてチュートリアルは終わらせてくれよ! 倒せる武器があるから」


「人類は終わったんよ」


 もう虚無感全開で呟いた。


「終わらせんな、救えよ。虫よりゾンビの方が怖いって」


「なんでこのゲームをやろうと思ったんですか! エイムもホラーもグロもダメなクセして、このゲームを一緒にやるとか自殺願望者ですか」


 せめて普通のホラーゲームにしてほしかった。


「こっちだってなぁ、初めはやらねぇって言ってたんだよ。お前よりもカッコイイと皆に見せつけてやる為に、うわうわ来たぞ~、逃げろ⁉」


「何処がカッコイイんだよポンコツ騎士が、アタシよりも後ろに居るじゃんか」


「そりゃあウルラが助けないからだろう」


 そうポンコツ先輩が叫んだ後ろが、盛り上がっていく。


 蛇みたいに長く、甲殻が連なった様に先から足が沢山あるのが見て分かる。


「……じゃ! 先に逃げる」


 自分が少し固まったのを不審に思ったポンコツ先輩が、どんどん影が大きくなっていく存在を振り返ってみる。


 きっと先輩がこっちを向き直す時には、自分は既に走り出していたことだろう。


「おいおい、仲間を見捨てて行くんじゃねぇ~」


 先輩の声が遠くに聞こえる。


「なにアレ⁉ ムカデじゃないよね! ほんっと最低っ⁉」


「デカっ! 待ってくれってマジで。あんなん出てくるなんて知らないんだけど」


「先輩、カッコイイ所を見せるチャンスですよ」


「バカ言ってんじゃねぇ、あんなん逃げるの一択だろう」


「囮くらいやって下さいよ、団長でしょう」


「隊の頭を囮に使うんじゃねぇ⁉ おいおい、店の前はゾンビに囲まれてんぞ」


「あん? 突っ切れそんなもん。後ろの気持ち悪いヤツの方がイヤなのキモイっての」


「お、男らしいな」


「女じゃボケナス先輩が」


「ゾンビを殴りながら俺を見て言わないでくれる⁉ すっごく心が痛むんだけど!」


「なぁにが団長じゃ‼ 先陣切って道ぐらい切り開いてよね」


「さっきまでと威勢が違うじゃねぇか、なんで俺よりお前の方がカッコよく映ってんだよ」


「知るかっ! きゃ~~~っ! い~~や~~っ⁉ もう虫出てくんなぁ」


「急に女の子になんの、何なん⁉」




「元から女だって言ってんじゃん」




「だからね、俺に怒りながらゾンビの頭踏みつぶさないでよ⁉」




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