第19話【暴走回】深夜の脱走、後日



 誰かがカーテンを開いたのか、強い日差しが顔にあたっている気がする。


「うぅ~、ん~? ふぁ」


 眩しくって枕に顔を埋めるが、次は窓を開けられたらしく気持ちの良い風が吹いて来た。


 布団に包まろうとしたが、肝心の布団が無い。


「ようやく起きたか。我をあんな場所にほっぽりだしておいて、自分はベッドでぐっすりと、えぇ、良いご身分じゃのう」


 少し呆れたような、笑い混じりの様な珠音の声が聞こえてきた。


 周りに手を伸ばしながら探ったら、掛け布団は珠音にギュッと抱き抱えられていた。


「おはよう珠音……昨日……あれ、そういえば」


 なんか思い出したくない記憶が、あ、いや、アレは夢だったのかな。


「わふ⁉ 急に起き上がるな、ビックリするじゃろう」


 勢いよく起き上がったせいで、危うく珠音の頭とぶつかる所だった、


「あれ? 昨日のは夢?」


 あんな事が現実に起こる訳が無いもんね。


「そんな訳なかろう、我はゲーム部屋で起きたのだぞ!」


「ゲーム部屋?」


 つまりアレはAR技術で作った疑似映像って事か⁉ やられた。


 暗い部屋で周りに何にも見えなかったから、すっかり雰囲気に騙された。


 うわぁ~、皆の前で気絶しちゃったのかよ、うわぁ~恥ずかしいよ。


 気絶しただけだよね、漏らしたりしてないよね。パニック状態で頭の中がごちゃごちゃしている最中に、ドアをノックされる。


「おはようございます。紬様」


 僕の声を聴いて、お辞儀をしながら現れたのはピシッ綺麗なスーツ姿のお爺さんだった。


「えっと執事さん?」


「はい、セバスとでも呼んでください」


 セバスさんにつられて頭を下げると、そこから飛び込んできた自分の服装に目がいく。


「あ、はい……ん? 何これ⁉」


 黒い布地のワンピースというスカート姿の自分。


 驚いて立ち上がると、すぐさまメイドさん達が僕を取り囲んで椅子に座らさせて、テキパキと手を動かしては僕を着飾っていく。


「昨日、夜に逃げようとした罰でございます。と、楓お嬢様から言われまして。今日一日はその格好でお過ごしになるよう、との事ですので」


 申し訳なさそうに頭を下げているものの、僕の手助けをしてくれる気はないらしい。


「なんでメイド服なんですか⁉」


 完璧にメイド服を着せられてしまった。


 本当にあっという間だった。なんの抵抗も出来ずにしっかりとメイド服を着ている。



「大変よくお似合いでございますよ」


 珠音はグルグルと僕を観察するように見回って、頷いている。


「僕の服は何処ですか? 今すぐに着替えますんで」


「申し訳ありません、全て洗濯中でございますので此処にはございません」


 セバスさんが視線を逸らしながら答える。


「それじゃあ、せめて男物の服……って、全て?」


 なんで全てって言ったんだ? まさか。


 スカートを上げて自分の下着を見ると、まさかのモノを履いていた。


「そのような行為は、はしたないですよ。今後はしない方がよろしいかと」


 コホンとワザとらしい咳をしながら、顔を逸らしてセバスさんが注意してきた。


「本当に全部じゃないですか⁉」


 なんで下着まで全部変える必要が……まさか、まさかだよね。


 そっから先は考えてはいけないような気がして、思考を強制終了した;。


「違和感が無いのが恐ろしいの、それは一種の才能ではないか? 実に可愛らしいぞ」


「こんな才能は要らないの」



 珠音が妙に気に入った様子で擦り寄ってくる。


「今日の活動が追われた、服はお返ししますのでご安心ください」


「うぅ~、そこまでしますか」


 昨日の事を思いながら羞恥心で、顔が熱いのが自分でも解る。


「夜に逃げるような事をなさらなければ、今日は普通に過ごせたかと」


 心にぐっさりと刺さる事を言ってくれるじゃないか。


「お、男物の服ならありますよね」


「……サイズが、その」


 諦めきれずにそうきたが、どうも反応が芳しくない。


「ぶかぶかで逆に色っぽくなりたいのか? 見てみたくはあるがな」


 ぼんっと自分の顔が沸騰して湯気でも噴き出たんじゃないかって思った。


 もう何も言えず、俯いて伏せる。


「良いです、このままで過ごします」


「その方がよろしかと、あぁ、朝食の準備が出来ております。皆様もそろそろ起きてくると思いますので、食卓の席にてお待ちください」


 そう言い残して部屋を去っていった。


「至れり尽くせりというやつじゃな」


「はぁ、とにかく行こうか」


 部屋の外で待機していたメイドさんが挨拶をしてくれる。


「食卓へは私共が案内いたします」


 そう言って、僕達の案内を始めた。




「みんなまだ来てないのかな」


「メイドが席についてるって不思議な感じだよね」


「ちょこんって座っているとお人形さんみたいだよな」


「アレで同い年くらいなんですよね、犯罪ですかね」


「そう考えるとさ、珠音様って子供のお姿なんですよね」


「二人そろったら破壊力倍増だね」


「もっと色々な服を着せてみたいな~」


「晶さん? その涎は食事の匂いに釣られてよりも、紬様と珠音様を想像して出てませんかね。犯罪ですよ……多分?」


「合法的にセーフしゃない?」



「あの~、皆さんも席に着きましょうよ」



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