第17話 呪われた新人ちゃん



 女性中心に集まられたスタッフが常駐しているのか、それとも唯のメイドなのか。


 長いスカートにキッチリとしたメイド服、本物のメイドさんなのに、テキパキと着替えさせられて、もう既にカウントダウンが始まってしまっていた。


 寮に来て、少し休んでいたら、このありさまだ。ドナドナと連れ去られて有無を言わさずに僕は悠月として、画面の中で立っている。


「は~い、皆昨日ぶりで~す」


「今日から見てくれている方も、宜しければまったりと楽しんでいってください」


「雑談配信を始めるぞ~」


 三人は切り替えが早いのか上手いのか、もう元気よくカメラに向かって手を振っている。


「これ、悠月。ふらふらしとらんで近くに行かんか」


「え、あ~、うん」


 正直に言って、僕はまだ付いて行けません。


 こうね、気持ちの整理ってヤツがあるんですよ。こんな可愛いキャラじゃなくってさ、すごくカッコイイ感じが良いのにさ。


 画面に映る僕も、苦笑いをしながらなんとか手を振っている。


「まだ私達の挨拶って考えてないからね、個性的といかないまでも何か欲しいよね」


 挨拶をして早数分、そんな事を呟いている栞さんの言葉が聞こえた。


「3Dが主な配信になるって言う事で室内も結構に作り込まれてるんだよ~」


「皆の見えてる背景ってね、実はそのままなんだぜ」


 実際の休憩場所であるリビングはまた別にある、本当に広く作られている。


 大体のゲームに関する部屋は全てが二階に用意されているよだ。


 すごく広いお屋敷の三階建て。三階層が個人部屋が割り振られている。


 使用人さん達は離れの別宅と言う感じだ。


「バーみたいなカウンターに並んでいる椅子も、しっかりと座れます」


 ちなみにカウンターの中では料理も作れるようになっている。


 一通りの設備も完備、冷蔵庫も大きく飲み物は常に用意されていた。


 お酒の入った棚もあるけど、執事さんかメイド長さんがカギを持っていて、簡単に取り出せないようにされている。


「リビングと一緒になって感じで机もあって、多分、皆が此処で食事をするだろね」


「広いの~、ソファーもフカフカじゃ」


「あぁ、こら跳ねるな」


 珠音がボフボフと跳ね回ると、数名のメイドさん達が驚いてはいたけど、すぐに微笑を浮かべて、珠音が遊んでいる画面と現実を見て笑っている。


 本来なら怖いだろうけど、こう画面越しでみると子供が燥いでるくらいにしか思えない。


 ある意味、珠音が此処に受け入れられた瞬間と言えるんじゃないかな。


「ここなら色んな方を呼んで遊ぶことも出来ますが、この部屋は雑談部屋になります」


「ホラー専用の部屋はこの隣でして、皆さん見えますでしょうか?」


「悠月ちゃんが立っている位置にある扉、あそこがゲーム専用部屋となってます」


「えっと、開けて良いの?」


「良いぞ~、開けてくれ」


 大体のやる事は休憩時の時に台本を渡されはしたけど、皆みたく上手くは立ち回れない。


「皆さんの方でも連動して、室内のドアが動いてるの分かるかな~?」


「技術の進歩だな。こっちの部屋がゲームスペースだぞ」


 部屋の隅に飲み物を置く机や、小さい冷蔵庫はあるけれど、他には何もないだだっ広いスペースとなっている。


 ソファーも壁際に置かれていて、軽く持ち持ち運びしやすく柔らかい素材だ。椅子と言うよりは座椅子みたいなソファーだから、だれでも簡単に持ち上げられる。


 床も一面に柔らかい素材が敷き詰められているので、立っていると不思議な感覚がある。


「私達が活動していると、この部屋とゲーム部屋が見れます」


 おっと、次は僕の番だな。


「か、カメラの切り替えは僕達から出来ちゃうけど、皆の方でもえ~っと、画像の下の方かな、カメラ選択欄があると思うんだけど……そこから、二窓? とかってできますかね」


「二窓が出来るのはPC環境かARタイルを使ってる人だけかな、携帯関係の小さい端末だと無理だから、その辺は気を付けてね~」


 なんとか、噛まずに言えた。


「コメント的には……うん、出来てるって言ってるね。こら珠音、飛び回りすぎだぞ」


「良いではないか、お披露目なのだからの。それに移動状況も確認出来るかは調べておいた方が良いであろう、テストを兼ねておるのだからな」


「タマちゃんも追えているようだし、それじゃあ大丈夫そうですね」


「ということで~。明日の告知をどうぞ悠月ちゃん」


 打ち合わせでは皆で言う事になっていたのに、僕一人に振られた。


「ほぇ? えぇ⁉ み、皆で言うんじゃないの⁉」


 キョロキョロと皆の顔を見るが、全員がニヤニヤと笑うだけだった。


「バシッと決めてよ男の娘でしょう」


「ファレナちゃん、いま男の子ってニュアンスが可笑しくなかったですかね」


 特に最後の部分が子じゃなく娘的な感じになってるよね、絶対に。


「気のせい気のせい。ほれほれ早く告知をどうぞ」


 嘘だっと叫びたかったが、此処はぐっとこらえる。


「皆さんが待っていますよ」


「男の娘ならバシッと決めようぜ」


 晶さんまでも皆に乗り始めた。裏切り者だ。


「腑に落ちない、ウラルの言い方もファレナと一緒な感じがするし……はぁ、明日は僕達が初めて行うVRホラーをやるそうです……気が進まない、逃げて良いですかね」


 気が乗らない。本当に逃げたい。


「それは許しません」


 ほぼ即答で栞ちゃんが笑いながら言う。


 うっとりとした笑みで、僕が怖がっている様子を見るよに。


「そうだぞ~、私達だって同じく怖い思いをするんだから一人だけ抜け駆けはダ~メ、だよ」


「まぁ、もうここに来ている以上、逃げられないんだけどな」


 そう言いながら、僕の両肩に二人の手が乗っけられた。


「へっ⁉ えっ⁉ どういうことですか!」


 逃れようとする前に、腕をがっしりとホールドされる。


「お主、気付いておらなんだか? 車に乗せられた時から悠月が逃げぬよう。常に逃げ道を封じられておったであろう。よう思い出してみると良い、車に乗せられた時の位置、此処まで誘導された時には魚娘とハンターとやらに連行されるようだったではないか、逃げ道は常に栞が塞ぐように立っておったしな」


 高笑いしながら、珠音が言う。


「気付いてたんなら教えて欲しいんだけど⁉」


 ここには敵しかいない様だ。


「ふふん、こんな面白そうな事を教える訳ながなかろう。傍から見ている分には最高に楽しいからのう」


「この、やっぱり悪霊だろう、女神何て嘘っぱちだ」


「へ~んだ、お主が悪霊と言うから、あくりょっぽい事をしとるんじゃよ~」


「ふふ、仲良しですね~」


「という事で、明日はいよいよVRホラーをやりま~す」


「順番は適当に決めるとして……悠月は最後だな」


「それは賛成~」


「異議なしです」


「頑張るんじゃぞ大取」


「ヤダ、逃げてやる」


「逃がさないってば」


「死なばもろとも、一蓮托生だぞ悠月」


「どの道、この屋敷からは逃げられませんよ」




「もう、この場所がホラーだよ⁉」




 涙目で訴える僕の叫びは、何故か皆を喜ばせているようだった。



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