第16話 呪われた新人ちゃん




「ふぅ、美味かったな」


「さすが老舗だね、あ~、まだ口の中が幸せだぜ」


 僕とホクトがお腹を摩りながら、お店の看板を見ながらさっきまで食べていた料理を思い出しては、一息ついている。


 帰った時に母さん達に何を言われるか、容易く想像できる。


 けど今は、そういった煩わしい思いは捨て去ってしまおう。


「そりゃあ果歩の一押しって店だし、外れはないでしょう」


「こういうのには無駄に五月蠅いから?」


 更紗ちゃんと未希も幸せそうな顔をしつつも、果歩姉ぇイジリは止めないようす。


「ありがとうございます。じゃあ紬君帰りましょう」


 サッと両脇に立った楓さんとソフィアちゃんに抱えられ、いつの間にか用意されていた車へと連れ込まれる。


 何気に晶さんが皆を遮るような立ち位置に居る事に驚きだ。


「私達はこれにて、失礼させて頂きますね」


 済まし笑顔で車の窓を開けて別れの挨拶をしている。


「え? あの楓さん?」


「さぁ行きますよ」


 楓さんが運転手に向かって言うが、「よろしいのですか?」と少し戸惑っている様子だ。


「ちょっと、紬を何処に連れて行こうとしてるんですか」


 果歩姉ぇが慌てて車へ駆け寄ってきた。


 その隙にソフィアちゃんと晶さんが車に颯爽と乗り込む。


「明日の準備があるんですよ、失礼ですが此処からは私達の車でお送りいたします」


「準備って?」


「詳しくは話せませんよ、それではコレにて失礼します」


 心配そうな顔をする果歩姉ぇを他所に、笑顔で手を振って車の窓を閉めてしまう。


「あ、紬――」



  ♦♢♦♢




「っち、逃げられたわね」


「いや~、ライバル出現だね果歩ちゃんにも」


「なんで私を見るの?」


「べつに~、深い意味はないよ。今年は楽しくなりそうだね~」


「マジかよ。頼むから俺を巻き込むのは止めてくれよ」


「我が家の家訓は、使える駒は使い尽くせっていう教えがあってね」


「とにかく、情報収集が必要?」


「アタシも手伝わなきゃダメなの⁉」


「更紗じゃあ人脈が皆無でしょう。未希がやらないで誰がやるのよ」


「だぁ~もう、面倒な事になって来やがった」


「仲間は多い方が良いよ?」


「アンタだけじゃあ、頼りないしね」


「わぁったよ。ヒビキにも声は掛けとくって、こうなりゃあ道連れだ」


「私は何時も通りに情報集めるね」


「まったく何だってこんな時に、他所から来た子達に紬君を取られなきゃならないのよ。一緒に楽しもうと思っていた企画がめちゃめちゃだよ」



  ★☆★☆




 家に送り届けてくれるのかと思ったけど、どうやら違うらしい。


 高級車らしく、広い車内で皆が向き合って座れて、脚さえも伸ばせる。


 珠音が車内を子供みたいに一通り飛び回ったら、僕の膝上に座って大人しくなった。


「僕の家を通り過ぎちゃいましたよ」


「えぇそうですね、大丈夫ですよ。今から向かうのは私達の寮ですから」


 皆がこれから過ごす寮にって、僕が連行されるのは何でだろう。


「いつの間に杏さんに連絡を入れたんだよ」


 晶さんがいつの間にそんな手回しをしてるんだと、言う感じで楓さんを横目に見ている。


「お花摘みに行った時に電話が掛かって来ましてね。どうせならという事でこのまま寮へご招待しようって事になりました。あぁ、明日に私達の活動あると言うのも本当ですよ」


 チラッと晶さんを見ながらも、全く気にした素振りもなく楓さんはシレッと答えた。


「明日か~、皆で一緒にやるのか?」


「いいえ、時間を区切って順番にプレイしていく感じみたいですね」


「今日はとりあえず、雑談配信って感じで明日に向けての告知だよ」


「あぁ、それで僕も一緒にって事ですか」


「ほぼ強制だった気もするがのう。しっかし喋れんと言うのは不便じゃの」


 何でだろう、基本的に僕にはそういった話が回ってこないのは。


 もしかしてワザと秘密にされていないか。そんなサプライズは要らないのだけど。


『携帯を使って喋ってみる?』


「ふむ、確かにその電子端末とやらを使えば会話が出来るか」


 皆とお喋りできなくて、少し寂しそうにしてた珠音に携帯で文字を打って見せた。


「ねぇねぇ、そう言えばさ。珠音様って近くに居るんだよね?」


 タイミングよくソフィアちゃんが珠音を気に掛けてくれた。


「居ますよ。いま僕の膝上に座ってます」


 まだ使い慣れていない携帯電話を一生懸命に操作している。


「あの方達は、珠音様の存在って知らないんだよね」


「まぁ買い物の時や食事の時に喋って無かったもんね。私達も見えないから敢えて触れないようにしてたけどさ」


「食事はちゃっかり食べていたみたいだけどね」


「ぬぅ、気付かれていたのか、不覚」


「ちょこちょこ悪戯してくるんだから、もう少し大人しくしててよ」


『無理じゃな、我をのけ者にするなど言語道断である』


「あら? これは?」


「マイクがあればスピーカーで喋れると思うけど、今は文字でのやり取りが限界ですね」


「それでタマちゃんでは喋れていたんですね」


「さて、付きましたね。此処が私達の新しい新居ですか」



 なんか昔の爺ちゃんの家を想像していたから、こんな豪邸になっているとは思いもしなかった。寮だし広さ的には、このくらいなのだろうか? いや、それにしてはデカいと思う。



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