第15話 呪われた新人ちゃん
雰囲気は落ち着いた一室なのだけど、畳に広い机の上には美味しそうなお刺身が彩り豊かに並べられたお舟が中央にドドンッと置かれている。
「ねぇ、此処って高いんじゃないの?」
皆の前には取り皿が置かれているが、誰も手を付けていない。
「別にお金は気にしなくても大丈夫ですよ、ワ・タ・ク・シが奢りますから」
楓さんがチラリと更紗ちゃんと果歩姉ぇを見ながら、一部分を強調して言う。
「皆集合の第一回目だからね~、やっぱりわいわい食べたいじゃん」
「日利さん……楓のお父さんがね。皆で親睦会も含めてって事で色々と出して貰っちゃったからね、使わない訳にはいかないんだってさ。気にせずに食べようぜ」
V仲間の二人は空気を換えようと明るい声で我先にと室内に入っていく。
「それは、良いんだけど……えっと、ねぇ」
なんかさっきから顔を合わせず、視線だけで楓さんと果歩姉ぇが火花を散らしてる。
服屋に居た時は物凄く仲良く、僕の服を選びまくっていたというのに。
更紗ちゃんとソフィアちゃんは妙に女の子が好みそうな服を選んで持ってきていた。
そして以外にも晶さんはというと、服屋で選ぶ服は何故かゴスロリ衣装やロリータ服っぽいワンピースというモノばっかりを選んでいた。
未希は晶の選ぶ衣装の場所を率先して教えていた。
着せ替え人形にされて、どれだけの時間が経ったのだろう。
外はもう日が落ち始めている。
「東方院さんに奢ってもらわなくても、私が出しますよ。紬君と一番仲の良い私がね」
なのに、いまはバチバチとライバル意識を互いに燃やしている。
さっきまで仲良かったよね、なにがあったのさ。
「悪いわね~、なんか邪魔しちゃったみたいでさ~。いやね、紬の友達代表として気になっちゃってさ。悪く思わないでよ」
「抜けているところがあるから、色々と心配なの。悪い人に騙されそうで?」
この二人も何だかんだ、ソフィアちゃんと晶さんを警戒している雰囲気だし。
何なのだ、この不思議な空気は。
「そうですか……私たちの関係はヒ・ミ・ツですので、貴方方には話せませんが、数日前から仲良くしていますので、お引き取り頂いて結構ですよ」
人差し指を立てて、秘密っと可愛らしくウインクして言うと。反対側の果歩姉ぇから冷たい空気みたいなのが背筋をなぞる。
「此処は私の傘下ものが経営してますから、色々と良くしてくださいますよ? ご遠慮なさらずに、東方院家のご令嬢を持て成さなかった方が問題になってしまいますので」
すごいなぁ~、皆笑顔なのに。笑顔に見えないって。
「紬さんや、今日は冷房とか要らねぇな」
「そうだね、十分に冷え切ってるね」
そしてこの場で唯一に使えない悪友が一人と。自称の女神が一匹。
「似た者同士が揃うと、恐ろしいものだのぉ~」
コイツは終始笑って、使い物にすらならない。
「紬、止めてきて?」
「生贄だね」
「生贄だよ」
「むしろ献上品として持ってったら、更に激化しない? 大丈夫かな」
女子四人が結託して、僕を囲んでくる。
「半分に分ければ良いんじゃねか?」
最後に付け加えたホクトが末恐ろしい事を言ってきた。
「なにその恐ろしい考えは⁉ や、皆、助けて!」
「我には何もできんな~。使えない神様じゃからのぉ~」
「すまない紬、良いモノを美味しく食べるにはこの空気を何とかしないとなんだ」
「晶さんっ⁉ 食欲に負けないでよ。誰でも良いからさ」
「無理無理、SPの皆さんもきっと紬ちゃんに期待してるから」
「むしろ、率先して手伝ってくれる?」
全員が僕と目を合わせてくれない。珠音以外はだけど。
「た、助けてくれるよね」
黒服さん達に救いを求めたけど、全員が一瞬だけ硬直したかと思うと。
「すげぇな、全員が一斉に顔を合わせないよに逸らしたぜ」
絶対に目を合わせてくれなくなった。
僕が護衛対象じゃないけどさ、守るのが仕事だよね。
「ほらほら、皆で仲良く食べようよ~。せっかくのごちそうなんだからさ。はい紬はここね」
上座に座らされて、僕の両側に付き添うように楓さんと果歩姉ぇが座る。
「そうですね、これから長く一緒に居る訳ですし。いまは美味しく食べましょう」
「あの、楓さん⁉ そっち利き手だから。くっ付かれると食べ辛いんだけど」
そそくさと他の皆が僕達の前に色々なモノを取り分けてくれる。
今日初めて会ったにしては、物凄い連携ですね君達。
「それなら大丈夫よ、お姉ちゃんが食べさせてあげるから」
「果歩姉ぇ⁉ べ、別に右手でも食べられるから……そんなに腕を絡めなくても」
「これは私達の親睦会ですよ。今日は私に譲って頂きたいですね」
少しムスッとした顔で楓さんが果歩姉ぇを睨む。
「そうね、別に良いわよ」
最初とは違い、しれっと言いながら譲る様な態度を見せた。
「あら? よろしいのですか?」
「何だか知らないけど、最初の集まりって言うんならそれなりの事なんでしょう。別に譲歩くらいはしてあげるわよ。独占しようとするなら、絶対に阻止するけどね」
此処に来るのに更紗や果歩姉ぇ達を遠ざける感じを見せたから、反発をして見せていた感じなのかな。
「僕は景品じゃないんだけど」
僕の呟きは、虚しくも皆に無視されていく。
「そうですか……では、今のところは甘えておきましょう」
果歩姉ぇが楓さんの言葉に、一瞬だけ眉がピクって動いたが特に何も行動はしなかった。
「いや~、羨ましいな。美女に囲まれてよ」
「あ、ホクトは先に帰りたいと? じゃあ此処の食事はお預けだね」
「まっ⁉ 待てって悪かった。だからそれは勘弁してくれ」
「じゃあいま助けてよ」
「紬、俺にも出来る事と出来ない事がある。そしてコレは俺じゃなくても出来ない、わかってくれよ」
黒服さん達も何故かホクトの言葉に頷いていた。
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