第14話 呪われた新人ちゃん



  ==☆★☆【視点:中原果歩】★☆★==



 可愛らしい巫女服から着替えて、何処かに遊びに行くのか分からないが、彼の家から皆でずっと尾行を続けている。


「ねぇ近くない? アレって近くない」


 外国少女とお嬢様が左右の手を繋いで、楽しそうに歩いている。


 非常に羨ましい、私や更紗も良くやるけど。


「ぐ、ぐるじぃ~、ロープロープ」


 手持無沙汰で思わず近くにいたヤツの、襟首を掴んでしまう。


 あらやだ、私ったらはしたない。


「なんでアタシらってこんなことしてんのかね」


「しょうがないよ、付き合わないと後が面倒?」


 そうは言いつつも、この二人は私以上に楽しんで尾行している気がする。


 どこから用意したのか、変な探偵っぽいコスプレに双眼鏡を持っている未希に、フィールドスコープを携帯にくっつけて、なにやら録画をしている更紗だ。


 尾行を言い出したのは私だけど、私よりも準備万端の二人って、どういう事かしら。


 初めから、今日は尾行する予定でもあったのかって疑いたくなる。


「私をのけ者にして、挙句の果てには紬君を気絶までさせた貴方達が悪い」


 お仕置きを兼ねて、紬君が気絶した原因を探ろうと神社に行っただけなのに、まさか私の知らない女性を三人も連れてお話してるとは思わなかったわよ。


 しかも、巫女服なんてレアな姿で。


「はぁはぁ、いま尾行をしてるのって関係な――いや、何でもありません」


 私から逃れた森丘君が息を整えるも、逃げようとする情けない男を冷めた目で睨む。


「それにしても、あの子達だれよ?」


 双眼鏡を覗きながら、三人の女の子をジッと観察している。


「一人は知ってるかも?」


 形態の画面を見ながら、更紗が呟く様に言う。


「は? なんで更紗が知ってんの」


 未希が振り返って、眉を顰めながら更紗を覗き見ている。


「東方院の本家で三女、東方院楓。ほら、この子でしょう」


 パパっと携帯画面を弄って、どこかの雑誌なのか、写真の付いている一ページを見せる。


「まぁまぁ、本当ね……随分と美人さんで…………紬君にあんなに近付いて」


 誰よりも早く、更紗の手元から携帯を引っ手繰って画面を隅々まで調べる。


「あぁ、あぁ~~。ちょ、まって、壊れる、壊れちゃうから⁉」


 私の手に飛びついて、少し強引に携帯を取り返されてしまった。


 確かに、少しピキピキ音はしてたかも知れないけれど。


 いくらなんでも、私の握力じゃ壊れないわよ、失礼ね。


「うわぁ~、超お嬢様じゃん」


 手元に戻った形態の無事を確認しながら、他の二人も一緒に画面を覗いている。


「知ってるって事は、パーティーとかであったのか?」


「うん、挨拶とかで何回か会ったことがある?」


 あまり思い出したくないのか、それとも朧気なのか、妙に眉を寄せて遠くを見ている。


「更紗もお嬢様だったわね」


 記憶の隅にある、ごみ箱に放り込んでいたせいで思い出せなかった。


「それなりに一緒に居るが、正直に言ってオタクってイメージのが強いんだよな」


 ムスッとした表情で森丘君を睨む。


「変な固定イメージは抹消すべき」


 ショルダーポーチから何やら取り出して、森丘君に突き付ける。


「だぁ~、待てって。お前ら俺の扱いが雑過ぎないか⁉ どっから出したそのスタンガン」


 森丘君も初めは怖い顔と雰囲気のせいで色んな噂が絶えなかったけど、いまじゃあ学園一の弄られキャラと化しているのよね。紬のせいで。


「でもさぁ、そのオタクってイメージが強いのって紬のせいじゃん」


「あの時の事は一生の不覚……上手く乗せられた」


 学園祭で誰よりも彼女を陥れたのもまた紬。きっとペットみたいに弄られたのが、そうとう癪に障ったのか、誰よりも率先して更紗を操っていた気がする。


「おかげでクラスで孤立することも無くなったんだから良かったんじゃね」


「新一年生にマスコット役が二人になった瞬間だったわね」


「人はそれを人身御供と言う?」


「そうね、紬も上手く自分に集まる対象を分散したわよね。アレは見事だったわ」


 お嬢様で寡黙、近寄りがたい雰囲気を一気に紬同様にペット感覚へと変貌させた。


 いまじゃあ、隠れファンが大量発生している。


「ちょっとちょっと、服屋に入っていったわよ」


「お、おい、流石にあそこに俺は入れねぇからな」


「紬君も逃げようとはしてるみたいだけど、アレは連行されるわね」


「女どもに抱き上げられるって、悲しい奴だな」


「私よりも小っちゃいし、仕方ない?」


「あの小動物観は犯罪的だぁね~。杏さんの血を色濃く継いじゃったんだね」


「は、放せ。て、店員さんっ⁉ 違うんだ、むしろ助けてほし――、なにをそんな生暖かい目で見てくるんです、ちょっと見捨てないで」


「もう、暴れないでください。見つかったらどうするんですか」


「あっちの女性にはバレてるっぽいけど? さっきからチラチラこっち見てるし」


「楓にもバレるかな、SPの人達が居るしね」


「更紗んとこの人で何とかしときなさいよ」


「ライバル関係にあるけど、そういう事に使う人じゃないよ?」


「そうですね、更紗に常識があって良かったです。私達に何か御用ですか?」




「あ、あれ? 皆も買い物?」



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