第13話 呪われた新人ちゃん



「ただいま~、母さん居る~?」


 二本の箒をすぐ横のドアと靴箱の溝辺りに立てかけながら、家の中に向かって叫ぶ。


「母上~、帰ったぞ~」


 珠音もすぐ後ろからテクテクとついて来て、一緒に叫んだ。


「はいは~い、お疲れ様……あら~?」


 リビングから顔を出して、こっちに向かってくる途中で気付いたのか、後ろの三人を見て少し間だが、固まってしまっていた。


「明星様、今日からお世話になります。東方院楓と申します」

「ソフィア・キャルタット。お世話になります」

「賀沢晶です。よろしくお願いします」


 三人が其々に挨拶をして、お辞儀をしながら顔を覗かせている。


「え、えぇ……随分、早く着いたのね。私は杏よ、紬の母です」


 流石は母さんと言うべきか、戸惑いながらも一瞬で猫を被る。


「自家用ヘリで皆さんを迎えに行きましたから。あぁそうです、こちら我が家のシェフが昨年に世界金賞を取得した一押しのスイーツです。お早めにお召し上がりくださいな」


 なんか色々と爆弾発言があったが、それよりも一瞬で現れては消えた黒子が気になる。


「……今の黒服はどっから出てきたのじゃ⁉」


 ぱっと現れ、一瞬で姿を消した忍者の様な人を追って珠音が外を見回すが、もう姿は見えないらしい、キョロキョロと高く飛びながらも見つけられずに戻ってきた。


「相変わらず、気配が読めねぇからビックリするんだよな」


 晶さんはいったい何者なんですかね。気配で人気が読めるって何処の武人ですかね。


「お気に慣らさらず、彼等は私共のボディーガードですから。普段は居ないモノとしてお付き合い下さい。特に気に掛ける必要もございません」


 楓さんはというと、ニコニコと笑って、さも平然と答える。


「ボディーガードさんって何処も似た感じの人なんだね。更紗ちゃん所の人が近くに居るのかと思ったけど、楓さんの所だったんだ」


 お嬢様って変な人が多いのだろうかと思ってしまう。


「楓と同じ様な、お嬢様と知り合いなのかよ」


 何とも微妙な笑み、と言うか驚きで口角をヒクつかせて僕を見てくる。


「うん、ここ最近に仲良くなった子だよ」


「名前的にレディーだね。案外、紬ちゃんってプレイボーイ?」


 それならどれだけ良かったことか、まぁ、男の人と話すよりは女の子と話している方が落ち着くというのは、あるかもしれない。


 小学校の頃に何人もの男に告白されて、追いかけまわされて以降、少し男性が怖いし。


 あの時の事は、今でも夢で見るからね。早く忘れたい悪夢の一つだ。


「はは、違うよ。仲良くなったのは偶然だし、それにまだ学校内じゃあ五人くらいしか、まともに話せないからね」


 皆は妙に僕と距離を置いて話すせいもあって、友達と呼べる人は少ない。


「友達を作るのが下手なのよね、うちの子って……(実際は違うんだけど)引っ込み事案ですぐにどっかに隠れちゃうんだから(色んなファン組織が鬩ぎあってるせいなんだけどね)」


 母さん、お願いだから心の声を悟られそうな表所は止めて欲しい。ここに居るのが初対面の子達だからまだ良いけど、果歩姉ぇや更紗ちゃん達だったら読み取られるから。


「え~そんな事は無いと思うけどな~、別に話し辛いって訳じゃ無いし」


「その、虐められているとかって訳じゃあ無いんですよ?」


 あぁ、こういう普通の反応をしえてくれる友達がクラスに一人でも居ればな。


「え? うん、別に虐められてないけど?」


 思わずクラスメイトを思い浮かべてしまい、どもりながら答えてしまった。


「どうせ、お主の事じゃからペット的な扱いでも受け取るのじゃろう」


 ジト目で見てくる珠音が、鋭い事を言ってきた。


「ち、違うよ⁉」


「(凄いわタマちゃん、大正解)皆から可愛がられているのは確かだから大丈夫よ」


 だからバレるって母さん。その間と表情でさ⁉ 頼むからしっかりと猫を被っててよ。


「えっと、それじゃあ立ち話もなんだから、上がってちょうだい」


「いえ、いきなり押し掛けてそれは気が引けますので、それは後日にゆっくりとお話いたしましょう杏様。それに私共はこれから紬様に、この街を案内して頂くというお誘いを受けましたので。恥ずかしながら、これからすぐにでも向かいたく」


 なんか変な誤解を与えそうな言い方をしないで、楓さん。


「あらあら⁉ まぁまぁ! 紬ちゃんから誘ったの! それは確かに引き留めちゃ悪いわね。存分に楽しんでらっしゃい……あぁ、ちょっと待ってて。寮の鍵を持ってくるから」


 くっ、今日はお赤飯とか炊かないだろうな。変にテンションが上がってるけど。


「え、あ、ちょっと待って。着替え――」


「時は金って言うからね。さぁ~、レッツゴ~」


 ガシッとソフィアさんが腕を絡ませてきた。


「いや、それは流石に可哀そうじゃないか? せめて着替えさせて上げれば?」


 晶さんが助け舟をだしてくれて、それに僕は全力で頷く。


「……それも、そうですね」


 楓さん、お願いですから。その、すっごく残念そうな顔で言わないでください。


「でもさ~、このまま歩けば広告的な活動が出来るよ~」


 いつまでも腕が解放されないと思っていたら、ソフィアちゃんがとんでもないことを提案してきた。コイの様に口をパクパクとしてしまい、声が出なかった。


「おぉ! それは良いのう。紬よ、そのまま出歩いてみたらどうじゃ」


 乗るな、この悪霊め。


「絶対にイ・ヤです⁉ せめて神主さんとかにしてくださいよ」


「あら、ダメですよ。巫女はまだ良いですが、神主様はきちんと修業した方が付く職業ですから、虚偽の活動になってしまいますよ?」



「でも珠音ちゃんが認めたんなら、良いんじゃないのか?」



「というても、我に今のところ力が無いからのう。無理じゃな」



「…………珠音が無理と言っているので、ダメなようですよ。そういう訳で着替えてきますから、それまでゆっくり家で寛いでいてくださいよ」




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