第11話 呪われた新人ちゃん
「悠月ちゃんって本当に神社の巫女さんやってたんだね~」
「いや、コレは……そのぉ。ちょっと違うって言うか、なんて言うか」
まじまじと見られると、かなり恥ずかしい。
「でも、男の子、ですよね?」
二人に両側から挟まれてしまって、隠れようにも逃げられない。
「わふっ! こ、コレは、い、悪戯とみたいな感じでして」
晶さんと呼ばれた女性には悪いけれど、引っ付いて後ろに隠してもらう。
「ありゃ、引っ込んじゃった」
残念そうな声が外国少女から聞こえてきた。
「二人がそんな顔で迫れば、アタシだって逃げるぞ」
唯一の見方である晶さんが、キッチリとガードしてくれる。
女性だというのに、凄くカッコイイです。
多分だが、この人がウルラさんで間違いないだろう。
「晶さん、そんなに隠さなくても良いじゃないですか、少しはこちらに譲りましょうよ」
ぷくっと頬を膨らましているお嬢様。
「そうだ~。可愛い子を独り占めはずっこいぞ~」
それに合わせて騒ぎ出す外国少女。
「いやいや落ち着けよ。まずは自己紹介が先だって」
晶さんと呼ばれた女性が、必死に二人を宥めてくれる。
「こんな場所での立ち話もなんじゃから、神社の方に行ったらどうじゃ?」
真後ろでずっと見ていた珠音が僕の裾をクイクイ引っ張ってくる。
なんか妙にウキウキした感じの声音だったけれど。
「うぅ~、そうだね。上に行って、お話をしましょう」
階段の途中で立ち話もなんだし、神社なら座って話せる場所くらいはあったはずだ。
「ん? そう……ですね」
お嬢様な子が不思議そうに小首を傾げて僕を見ている。
「悠月ちゃん? そっちには誰も居ないぞ」
そうか、珠音の姿は見えていないのか。誰も居ない場所を向いて反応していたら、確かに変に見えてしまうだろう。下手したら怖がられる。
「えっ! あ、はい。ごめんなさい」
慌てて頭を下げて、皆の反応を窺う。
「これは面白い子な予感だね。不思議っ子ちゃんだ」
「まぁまぁ、自己紹介でもしながらゆっくり上を目指しましょう」
別に気味悪がられている訳では、なさそうだった。
「はいは~い。イッチバン、私はソフィア・キャルタット。よろしくね。ファレナは私だよ」
「よ、よろしくお願いします……日本語がお上手、ですね」
なるほど、元々が明るい性格の子なんだな。
「生まれも育ちも日本だよ。お母さんが海外でね、お父さんが日本人のハーフで~ス」
「そ、そうなんだ」
にこにこ微笑む元気な挨拶に、何と言うか溶かされてしまいそうで思わず隠れちゃう。
「もう取って食べないから、隠れないでよ~」
「すいません、その、慣れるまで、このままで」
圧を掛けられている訳ではないのに、妙にドキドキしておされてしまう。
「もう~、仕方ないな」
僕の性格を理解してか、困りながらもさっきよりもグイグイ来ることは無くなった。
ただ、何か妙な視線だけは彼女から向けられているけど。
「アタシは賀沢(かざわ)晶(あきら)だ。まぁ分かりやすいだろうが、ウルラだ。よろしくな」
「はい、よろしくおねがいします」
この人は話しやすいというか、妙に安心できる。
「出会って早々に懐かれた晶さんが羨ましいですね」
ジト目で晶さんを見つめるお嬢様。
「いきなりにがっついたからでしょう」
ため息交じりの苦笑いでツッコミを入れられている。
お嬢様っぽいけど、違うのだろうか? 結構、普通に皆と接している。
「分かっていますよ。普段でしたら失態は侵さないというのに、失敗しましたね」
悔しそうに俯いてしまった。
「色々と自由に出来る様になって、気が緩んだんでない?」
やり取りを見ていたソフィアちゃんが、笑いながら言う。
「そうかもしれませんね。はぁ、おっとすいません。最後に私は東方院(とうほういん)楓(かえで)と申します」
やっぱり良いところのお嬢様なのだろう、綺麗な挨拶だった。
「東方院? どこかで聞いたような」
「まぁ私の家名は有名ですから、聞いたことがあっても不思議ではないですね」
いや、そういう事じゃなくって……って、本当にお嬢様だったかよ。
「よっと! いっちば~ん」
ソフィアちゃんが駆け上がって手を高く上げて、人差し指を空へと向けている。
「これはまた……随分とボロボロですね」
「悠月の設定って半分は本当の事が混じってるのか?」
二人は神社の様子を呆然と見つめていた。
「え~あ~、はぃ」
迷った末に、曖昧な感じで返事をしてしまった。
「そうじゃのぉ。半分ではなく全部が本当じゃがな」
先に神社へと先回りしていたのか、いつの間にか珠音の姿がない。
「あら? この声って」
「珠音ちゃんも居るの⁉」
二人が周りを見回してみるが、何処にも珠音の姿は無かった。
あれ? 声が聞こえてる⁉ さっきは反応もしていなかったのに。
「おるぞ~、此処じゃここじゃ」
楽しそうな笑い声と共に真上から声が聞こえてくる。
「こらっ‼ 子供がそんなところに上ったら危ないだろう⁉」
「鳥居の上になんて、どうやって上ったのでしょうか?」
「えっ! あれ? みんな見えてる⁉」
皆が鳥居の上に座っている珠音に注目してる。
珠音の姿がしっかりと見えている感じだ。
「ここは我の聖域じゃぞ、ある程度の事は出来るわい。まぁ、紬が居らねば、こういった力は使えんのだがな」
鳥居の上から腰を下ろして、落ちてくる。
「わっ! ばか飛び降りるな⁉」
珠音は地上に着くことなく、ふわふわと浮かび上がりながら足組をしている。
「えっ⁉ と、飛んでるよ⁉」
「マジックですか? 仕掛けは何処に」
「こ奴等にはある程度の話しをしておいた方が良いじゃろう」
「まぁ、そうだけど」
「でないと、さっきみたいに一人で虚空に話しかけているヤバい奴にしか見えんぞ」
「うぁ……確かに」
「悠月ちゃんのキャラクター設定って、あの神罰で女の子になっちゃう的なヤツのこと?」
「そ、そこまで話すの⁉」
「これから長く付き合うのじゃ、変な誤解をせぬようにしておいた方がよかろう」
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