第10話 呪われた新人ちゃん
「はぁ、人が来ないのが救いだよ」
まだ巫女服でよかったと言うべきなのだろうか、ミニスカートとかじゃなくてよかった。
「辛気臭く泣きながら掃除をしないで貰いたいんだがのう」
階段部分を綺麗にして、石をどかして土をならし、そこにまた石を置いて固める。
「僕の気も知らないでさ~」
細かい砂利を撒いて均すの繰り返し。
「その恨みがましい声もやめんか」
ぶつくさと文句を言いながら、作業はテキパキとこなしていくからか、ジト目で珠音が見てくるだけで、そこまで怒られる事も無い。
「腰に来るよこの作業は」
トントンと腰を叩く。
流石に中腰が続くと辛い。足腰は鍛えられそうだ。
「階段だけでも直しておかんとあぶないじゃろう、今後もこっちまで来るんだからな」
そこには賛成だ。階段で足元がふらつくなんて危険過ぎる。
来るたびに足元を気を付けながら歩きたくはない。
「素人の補修でも、まぁマシかなっ、よいっしょ」
「以外に重いのぉ」
大きい石は二人で一生懸命に運ぶ。
「……その割には僕よりも大きな石を運んでないか?」
「ぬ? そうか?」
僕が何とか持てるモノを、軽々と片手で持ていくからね。
「雑だけど、上から直してきてようやく半分くらいかな?」
一息つきながら、手ぬぐいで汗を拭う。
「じゃな、コレだけでも少しはまともに見えるもんじゃな」
まだ朝だからマシだけど、汗は凄い出てくる。
「最初の状態が酷過ぎだから。ふ~、ちょっと休憩しよう」
「うむ、良いじゃろう。後は下まで一気に掃き掃除じゃな」
綺麗になるのを見るのは、ちょっと優越感があった。
二人で満足そうに上を見上げて、自分達で補修した階段を見ていた。
「石を直しては積み上げて、固めては締めるって作業が無いだけで、遥かに楽だよ」
こっから下は、もう掃き掃除だけで十分そうだ。
「ほれ、母上からの水筒とやらじゃ。我には使い方が分からん」
和服の袖に手を突っ込んで、にょきっと水筒が出てきた。
「どっから出したんだよ?」
袖の太さ的に、水筒は入ってないだろう。
「乙女の秘密じゃて」
何故かドヤ顔で言いながら、僕を見下ろしてくる。
僕よりも背が小さい癖に、何故かこういう時には飛び上がって上から見てくる。
「これはこうやって上の部分を回すんだよ。そうすると、コレがコップの代わり。ここの出っ張ってる部分があるだろう、そこを押したら注ぎ口が開くから」
カラカラと、水筒の中で氷の音が聞こえる。
「おぉ~、出てきたぞ。さっきまで揺らしたりしても出でこなかったというに」
目をキラキラに輝かせて、水筒をマジマジと見つめてくる。
「ちなみに、今の水筒って魔法瓶って言ってね、中の飲み物を冷たいまま、温かいままで長時間の維持できるんだよ」
何言ってんだコイツ、という顔で珠音が僕を睨む。
「ふむ? 魔法だと。そんな眉唾物を信じとるのか?」
からかっている訳じゃあないんだけど、確かに簡単には想像が出来ないね。
「じゃあ、一口飲んでみなよ。冷たいからさ」
驚く姿を想像して、思わず頬や口端が上がってしまう。
「我は騙されんからな――わふっ!」
「へへ、冷たいだろう」
ニヤニヤ顔の僕をよそに、感動しっぱなしの珠音はちょびちょびとお茶を飲む。
「それに美味しいのじゃ。それにしゅわしゅわしよる」
「紅茶の炭酸水かな。うん……ふぁ、飲みやすいようにしてくれてるね」
母さんが好きな奴だ。
炭酸水に茶葉を入れて、軽く転がして置いておくだけ。
「それと、おにぎりも貰ってきておるぞ」
「お前の袖は四次元的な空間がついてるのか?」
やっぱり袖のふくらみと比例してないよ。
「ふふん、神様じゃからの」
相変わらずのドヤ顔で、無い胸を張っている。
「ったく、ほら座りなよ」
ハンカチを階段に敷いてあげる。
「…………女子力が高いのう」
「はぁ⁉ なんだ急に?」
「いや褒めておるのだぞ、その、さりげない気遣い」
「あっそう、そりゃ母さんの教育が良いんじゃないか? いや、父さんか?」
「まぁ、よいよい。早う食べよう」
★☆★☆★☆★
「ふぁ~、食べたら眠くなるよね~」
「分からんでもないが、掃き掃除くらいは終わらせるぞ」
二人して欠伸をしながら、階段の掃き掃除をしていると、遠くから声が聞こえてきた。
「――から、――――ない?」
遠くて会話は良く聞こえない。
「おや? 誰か来たようだぞ?」
珠音も気付いたのか、階段下を見下ろす。
「――ですね。――――――ですし」
「うわっ! 本当だ⁉ えっと、どっかに隠れなきゃ」
「――――よ。――――――なんだ」
人数は三人くらいだろうか? もしかして更紗達かな。
「堂々としていた方が、注意を引かんと思うがのぉ」
「―――――っ⁉ そうなんですか?」
「そりゃあ、そうだろう。使用人とかが居る訳じゃ無いんだ。しかもこんな辺鄙なとこにある神社だぞ? 管理している人数は多くないだろ」
声は聴いた事があるような、無いような。
ただ、少なくとも学校のメンバーじゃあない事は確かだ。
「良い場所な分だけ、勿体無いよね~」
「そうですね」
段々と声が聞こえなくなった様に感じ、木の陰からそっと頭を出してみる。
「もう、行ったかな?」
階段の場所には誰の姿もなかった。
走って上ったのかな? それにしては早すぎるような気がするぞ。
「あ~いや、言い難いが。見つかっておるぞ」
頭の上から、珠音がそんな事を言う。
「巫女さんだよ! 生巫女さん」
真後ろから聞こえたきた声に、思わず飛び上がってしまう。
「びっ! わふぅ⁉」
変な声が出ちゃったよ。
「ソフィアさん、そんな水族館や動物園じゃあないんですから、失礼にあたりますよ」
「悪いねきみ……ん?」
ボーイッシュでスタイル抜群な女性手を伸ばしてくるが、何か固まった。
「あれ~? 君って……どっかで」
ソフィアと呼ばれた外国少女も僕の顔を覗いてくる。
「あら? 同じ、顔ですね」
物凄いお嬢様っぽい人が探偵の如く、カバンから何かを取り出した。
何やら写真を僕の顔隣りに当てて、見比べている。
「ほぇ‼ な、なんでそんな写真を……持ってるの⁉」
その写真は昨年の文化祭で女装をさせられた時の写真だ。
「たしかに、なんで写真を持ってんだよ?」
ボーイッシュな子も不思議そうに聞いている。
「近くに住んでいるとアズキ様が言っていたではありませんか、それでしたら見つけてみたくなるじゃありませんか」
え? アズキ様? あれ、なんか最近に聞いた名前が出てきたね。
「いつの間にマネちゃんのPCから焼きまわしして貰ったん?」
「不審者と間違えないよう、身近な人の事は知っておくべきだと打診しました」
「あぁ、言い包められて。マネージャーが涙目で差し出したんだろうな」
このノリも、昨日くらいに味わった気がする。
「失礼ですね。きちんと快く了承を得て貰ったモノです。おっと、コレは私のですから」
気が反れているうちに写真を回収しようと手を伸ばしたが、軽々と避けられてしまった。
「い、要らないでしょう。燃やしてよそんな写真っ⁉」
「あぁ~、こうやって取られた写真なんだね」
涙目で訴えた瞬間に、彼女達の後ろ側からパシャっと音が聞こえてきた。
「なんで君は写真を撮ってるのさっ⁉ ダメ、ダメダメこんな格好の僕を撮らないで」
外国少女は満足そうに自分の携帯画面を見ている。
「ほらほら、二人ともそれくらいにしないと、嫌われちゃうぞ」
「む、それは本意ではありませんね」
「ぬ~、嫌われるのは確かにヤダな」
ボーイッシュな女性だけが僕の味方だ。
「うぅ、ありがとう」
二人か隠れるようにして、彼女の後ろに回ってお礼を言う。
「あ、あぁ。気にするなよ」
正面からお礼を言いたいが、今は二匹の猛獣が居る為に、これで今は我慢してほしい。
「これは、美味しい所を持っていかれましたね」
「ズルいぞ~」
「こ奴らって、もしかして昨日の子達かの?」
珠音の考えと、僕も同じ想像をする。
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