第9話 呪われた新人ちゃん



 なんか強く世界が揺れる。


「ふぁ、うにぅ~……ん~~」


 少しずつだが、頭の中の靄が晴れていく。


「ほれほれ、いつまで寝とる。朝一に顔を洗って掃除じゃ掃除~」


 最近、聞いた声が聞こえた。


 でもまだ瞼が重く、開こうとなんてしてくれない。


「……あと二時間、ねる~」


 きっとまだ起きる時ではないのだろう。


「そういって丸々一日を寝て過ごすきじゃろう。そうはさせんからな」


 体を温かくしてくれていたモノがひっぺがされてしまい、慌てて掴み引き寄せる。


「や~、引っ張るな~」


「一緒に掃除をしてやるから、さっさと起きろ。母上も父上も起きておるぞ」


 すぐに力が入らないから、あっさりと掛け布団が奪われてしまった。


「あの二人はもう少しちゃんと寝た方が良いんだよ~。だから僕が代わりに寝る」


 なんとかあったまろうと、薄いシーツに包まる。


「させんよ。まったく、寝ぼけている割には隙がないではないか」


 しかし、それも阻止されてしまった。


「お布団返して~」


 ぼやけた視界で何も見えず、手を伸ばしてあっちこっち探るけど何もない。


「ほれ、さっさと顔を洗ってこい」


 半場強引に起こされて、ズルズルと引っ張られていく。

 ショボショボな目を擦ってみるが、まだ視界がハッキリと見えてこない。


「ツムちゃんおっはよ~。今日は休みなのに早いのね?」


 好きで起きた訳じゃない。起こされたのだ。


「ん~、起こされた~」


 なんとか自分の力で立っているけど、まだフラフラしている。


「あらあら、可愛いアホ毛が出来ちゃってるわよ」


 面白そうに母さんが僕の髪の毛を弄ってくる。


「顔洗う~」


「もう、タマちゃん後は頼むわね~」


 母さんも顔を洗っていたのか、多少だけど髪が乱れていた。


「うむ任された。あぁ、こらこら、そんな雑に洗うでない」


 濡れタオルを頭に当てられ、顔を別のタオルで優しく拭いてくれる。


「杏ちゃん、言われた服を持ってきたけど~。こんなの何に……あぁ~そゆことね」


 今度は父さんが僕の着替えを持ってきてくれた。


「はい、これに今の内に着替えさせちゃってちょうだい」


 なんか妙に母さんがニコニコしながら、珠音に衣服を渡している。


「承知した」




 いや、確かに寝ぼけてたけどさ。


「……ねぇ、なに? この格好は?」


 いま、僕は何故か女物の服を着ております。


「ふっ、正装に決まっているではないか」


 ドヤ顔で答えるなよ、殴りたくなるじゃないか珠音さんや。


「何処から出てきたんだよ巫女服なんて⁉」


「ぬ? 父上が持ってきたぞ?」


 当たり前な事を聞くなよって顔で、言わないで頂きたい。


 僕は男なんだぞ⁉ せめて神主みたいなので良いじゃないか。


「父さんっ⁉ なんだこんな服があるんだ」


「俺のじゃないぞ⁉ 杏ちゃんの持ち物だよ。渡されたのがそれだったんだ」


 僕が涙目で睨むと、慌てて説明してくれた。


「ちょうどよいではないか。さぁ、掃き掃除をしに行くぞ」


 そんな事はお構いなしに、珠音は僕の腕に抱き着いた。


「わわぁ! ちょっと引っ張らないで。着替えさせて、嫌だ、こんな服で外に出たくない」


 以外にも力が強い⁉ なんで僕よりもチビな子供に力負けしなくちゃいけないんだ。


「寝ぼけていたとは言えども、律義に着替えちゃうんだもんな~」


 自分のせいではないと言いたいのか、僕を哀れんだ目で見てくる。


 それが自分の息子に向ける目かよ。


「あらまぁそんなこと言って、劉ちゃんだってノリノリだったじゃない」


「今度は、カツラでも用意しておこうかね」


 恐ろしい会議が目の前で行われている。


「要らないからな、変なモノを増やすなって、ほんとにちょっと待ってよ珠音っ⁉」


 グイグイと引っ張られて、引きはがす事も抗う事もできない。


「母上よ、竹箒は何処かにあるのかのう? あ、こら逃がさぬぞ」


 というか、いつの間に父さんと母さんの呼び方がそうなってんの⁉ 本当に僕に妹でもできたみたいな感じになってるじゃない。


「外の道具入れに入ってるから好きに持っていきなさい」


「おまっ! なんでそんなチビの癖に力が僕よりもあるんだ⁉」


「お主の力がなさ過ぎるんじゃあないか? ほれほれキビキビと歩いて行くぞ」


 もう面倒だとばかりに、襟首を掴まれて強引に引きずられる。


「いや~、着替える~、わっ! ひ、引っ張るな、ぬ、脱げちゃうだろうが」


 僕の両親共は手を振って見送っていやがった。



  ☆☆☆★☆☆☆★



「あれ? そう言えば今日だよね、あの子達が来るのって」


「たしかお昼には着くんじゃあないかしら? 荷物は後日って言ってたから明日から続々と運ばれて来ると思うわね」


「しかし良かったのかね、あの家って義父さん達が代々と住んできた屋敷だろう?」


「建物自体が古すぎるからね、どうせ建て替えって時だったから丁度良かったのよ。母さんからも許可は貰ってるし、設備も万全にして貰っちゃったから逆に喜んでたし」


「我が家が言える事じゃないが……皆、親バカだったな」


「正直、親を止める方が骨が折れたわね……守る為とか、寄付金とかって言っても貰い過ぎてもねぇ~、終いには警備員として常駐するって駄々を捏ねられるなんて、まったく思わなかったわよ」



「言わなくて良かったのか? 下手すると神社で会ったりするんじゃないかな」


「近いとは言ってもこっちまでは来ないでしょう。それに神社までの道は歩くしかないのよ? お嬢様に武闘家と芸術家で神社まで足を延ばしそうな子なんて、晶ちゃんくらいしかいないわよ。道だって悪いんだから」


「そうかなぁ~、楓ちゃんもソフィアちゃんも結構にアクティブぽかったんだけど」


「気のせいじゃない? それよりも早く最終調整をしちゃいましょう。明日には試運転を兼ねたVRホラーと体感してもらわないとなんだから」



「あぁ、やっと終わるね~、ふぁ~~。流石に徹夜明けだと眠いね」



「ここ何日かまともに寝てないしね~。終わったらゆっくり寝ましょう」



「わっとと、引っ付き過ぎだよ杏ちゃん」

「えへへ~、良いじゃない。今は二人っきりなんだから~」




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