第8話 呪われた新人ちゃん
デビュー配信が終わった後に、僕はすぐにベッドの中へと飛び込んだ。
「うぅ~、貝になりたい」
「なっとるではないか」
布団を全身に巻く様にくるまって、羞恥に悶え苦しんでいる僕に呆れた珠音の声する。
「ほら~、紬ってば出ておいで~。別に大丈夫だって、皆は応援していたぞ」
父さんがちょっと甘い声音で僕を揺するが、更に殻にこもる様に丸々。
「巻貝みたいに布団にくるまってないで出てきなさいよ。今日はツムちゃんの大好物だぞ」
母さんもちょっとは悪いと思っているのか、声のトーンが弱い。
「おぉ、ピクっと反応したのう。我も楽しみにしとるのだ、早う皆で食卓に着こうではないか。グラタンとやらを食べたことがないからのう」
珠音だけは、全然変わらないようだけど。
「僕を食べ物で釣ろうとしても、無駄だからね」
頭だけをだして、そっぽを向きながら言ってやる。
「もうそんな可愛いふくれっ面してないで、早く食べましょう。冷めたら美味しくないぞ」
小さく膨らました頬を、母さんがツンツンと突いてくる。
「そうそう、早う行くぞ。あまりに駄々っ子だと神罰の進行を早めるぞ」
なにそれ、そんなことも出来るのかよ⁉ 怖いんだけど。
「あ~ご飯を食べながら良いんだけどさ、珠音ちゃんの神罰ってのが進行すると結局どうなるのかっていうのを聞きたいんだけど?」
僕が顔をだして驚いているのを見て、大丈夫だとでも思ったのか皆が部屋から出て行こうとしている。
ちょ、ちょっと、もうちょっと色々と構ってくれても良いんじゃないかな。
「そうじゃのう、別に構わんぞ」
部屋の入口辺りで、チラチラと皆がこっちを見る。
「行きますよ、もう……行けばいいんでしょう」
今回は、今回だけは僕が折れてやろう。
せっかくの、母さんが作ったグラタンだって冷めてしまうしね。
★☆☆★☆☆★
「美味しいのぉ~。頬が落ちてしまいそうじゃよ。まったくお供えモノだって、こういうモノが食べたかたのぉ~。大概はイモや果物じゃったし」
珠音は小皿に分けられたグラタンやサラダをむさぼり食べては、顔を上げて満面の笑みを浮かべ、目をキラキラさせている。
「なんでもう馴染んでるんだよ」
きちんと椅子に座り、足を多少ブラブラさせながらも美味しそうに食べている。
「ふん、郷に入っては郷に従えと言うではないか。それにのう、美味しく、珍しく、便利なモノは人の歴史と英知の結晶じゃろうて、それらを否定し仕舞う事の方が罰当たりじゃ」
そう言われては、なにも言えない。
「やっぱり良いわねぇ~、可愛い妹がもう一人で出来ちゃったみたいで」
母さんは年外にもなく、ウキウキしながら僕と珠音を見ては満足している様子だ。
「我は子孫繁栄とは無縁じゃぞ?」
きっとそういう事じゃないぞ珠音さんや。
「ふふ、分かってるわよ。なんていうのかしら、若返ったみたいな感じよ」
「杏ちゃんは若いでしょうに……っと、それで、神罰の進行ってどんな感じなんだい?」
父さんが言葉を選びながら、下手な事を言う前に話題を逸らし始めた。
「そうじゃのう……といっても、我も良く解らんのじゃよ」
「あ? どういう事だよ」
珠音がやったことなに、分からないって。
「我がちょいと間違えて神罰を使ってしまったが、その時にはお主を女子だと思っていた。つまりは我が与えたのは女子へ向けた力な訳である。それがどうやら紬の運命と変な混じりあいをしたらしくってのう。神罰の進行が進む連れて、思考や身体つきが女性へと変化していくみたいなんじゃよ」
一つ一つをかみ砕く様に説明をしてくれる。
珠音自身、一から整理しているようだった。
「間違えたのなら、神罰を解く事って出来ないの?」
「そうだそうだ、間違えたのはお前だろう。戻せよ」
確かにと思い、父さんに便乗する形で攻めようとしたけど。
「無理じゃな」
即答で、しかもキッパリと言われてしまった。
「随分とハッキリ言うね? どうして無理なのかな」
僕は思わずスプーンを落としてしまったが、父さんが興味深そうに聞き返す。
「先ず一つは我の力がもう無いに等しいからじゃな。神は人あっての神なのじゃよ」
「えっと~ごめんなさいね、良く解らないのだけど」
母さんがほっぺに手を当てて考えていたが、分からないとすぐに諦めた。
「うむ、神は人の信仰があってこそじゃろう。我の事を崇め奉る者達はもうこの世に貴様らだけという事じゃろう。一家族分の信仰などあって無いようものじゃよ」
「じゃ、じゃあずっとこのままなのか⁉ というか、呪いを解呪出来ないんじゃ、もう女の子になる未来しかないじゃないかよ」
両手を机について項垂れた僕とは違い、父さんも母さんも納得した表情だった。
「あぁ、だから復興再建か」
「なるほどね~、ちゃんと理由があったのね」
二人だけで解らないで欲しい。
「もう、なに⁉ どういうこと?」
僕は催促するように珠音に詰め寄る。
「我の存在が残っておってよかのぉ~。我が消えたら本当に女になる未来しか無かった訳じゃが、こうして我は此処に存在しておる」
ガクガクと揺らされながら説明されたが、いまいちピンとこない。
「つまり、珠音ちゃんの神社を復活させて、信仰者を増やせば力も取り戻せるって訳よね」
「その通りじゃ、別に私利私欲の為に神社を盛り上げろと言うとる訳じゃないということじゃな。分かったかな紬ちゃんよ」
されるがままだった珠音が、仕返しとばかりに僕をイジリ返してきた。
「ちゃんずけすんなっ! 頭を撫でるな! 分かったよ理解したから寄って来るな」
いくら振り払おうとも、蚊のごとく回避して続けてくる。
「さっき一つと言っていたが? まだあるのかい?」
「そうじゃ、もう一つは我の力の半分が紬に宿ってしまっておることじゃな。普通に生活する分には困らぬが、我と紬が離れられる範囲は建物一つ分から二つ分じゃろう」
「どうあがいても、逃げられないって事じゃないか」
どっちにろ救いは無かったんだ。
「まぁまぁ、個人の空間が保てるだけマシじゃろう。あぁ、あと我の加護か知らんが動物には気を付ける事じゃな、好かれやすくなっておるから」
えぇい慰めるなよ。
僕的にはちょっと嬉しい情報だけれど、なんか珠音のニュアンスだと違うようだ。
「あらあらまぁまぁ、それは良い事なんじゃないの?」
「気を付けろって、危ないようには思えないんだけど?」
父さんも母さんも首を傾げている。
「限度があるわい。下手すると小動物共に埋め尽くされるぞ」
「なにそれ、怖いんだけど」
確かに気を付けないと、それは流石に危ないな。
「それはそれで、見てみたいわね」
母さんは絶対に別の想像をしていると、思う。
「飼われてるペットはまだいいとしても、野生の動物は確かに危ないかもね」
父さんだけは冷静に分析をしてくれている。
「ちなみに、タヌキやら猫共に囲まれておるぞ。犬もチラホラいる様だが、飼われておる奴らかのぉ? 遠くから伺い見ているヤツが殆どじゃ」
「ツムちゃんが猫アレルギーとかじゃなくって良かったわ」
「気にする分はそこっ⁉ ど、どうすんのさ⁉」
「神社の名物にでもしちゃえば良いのでは?」
あれ? 父さん⁉ さっきの冷静な分析をしてた貴方は何処に行ったのです。
「劉ちゃんナイスなアイディアね」
「食事代は、今後の紬の活躍しだいだな」
「ねぇ、待ってよ。それってただ単純に僕が解放されるのが遠のくだけじゃない」
「我の眷属ではないが、同族として無碍にするのは許さんからな」
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