第7.5話 デビュー配信後の仲間達(視点:天原栞)
==★☆★ 視点【天原栞】 ★☆★==
「いやはや、無事に終わりましたね」
ずっとテレビ画面を見ていた田中マネージャーが、終わったとばかりに伸びをしている。
「あの、マネージャーさん。アレは無事っと言える終わり方だったのでしょうか?」
悠月様を守りながらも、先輩達が暴走して終わるという珍事な気がするのですがね。
「最後までハチャメチャだったね~。いや~、めっちゃ楽しかったよ」
「後でコメント見てみようぜ。ぜってぇに悠月の事で盛り上がってるからさ」
私もそう思わなくも無いですが、二人は完全に楽しんでいた様ですね。
「反響が良かったですし、無事でしょう。アズキさんとユウビさんが居てトラブルが起きなかった事など無いんですからね。ユウビさんが補佐的なブレーキ役に回るなんて、末恐ろしい子でしたね悠月さん。後でアズキさんから資料を貰わないとですね」
横長の専用ディスプレイを、隅々まで見渡して言う。色んな箇所に何かしらのソフトが立ち上がっている。コメントや、グラフ数値ぐらいしか私には理解できない。
「本当にいきなりでしたけど、良かったのですか? スカウトという事でしたけど」
今回の事は私達にとってもサプライズだったと言える。
「えぇ、ずっと前からちょくちょくアズキさんからの推薦があった子ですからね。社長も何を見せられた知りませんが、彼に関してはアズキかユウビが連れてきたら、問答無用の推薦枠としてデビューさせるようにと、訳の分からない指示が出ていましたからね」
アズキ様とユウビ先輩は本当に只者ではありませんね。
「うはぁ~、ユウビ先輩も絡んでるんだ~。そりゃあ逃げられないね」
「社長が見たって資料が凄く気になんな」
いったい何を見て上の方達を虜にしたのか、気になりますね。
「全くですね……しかし、あのお二人が囲いたがるのも今回の事で少し分かりましたがね」
田中マネージャーも審査員として、今回の選考会にも関わっていましたしね。
「マネージャーさんも、悠月様に魅了されそうになったのですか?」
私がマネージャーさんを観察しながら言うと、そんな私の視線に気付かれたのか、すぐに顔を逸らされた。ちょっと耳が赤くなっていますよ。
「ンンッ。それでは――」
誤魔化すように喋ろうとしたマネージャーを遮る様に、通話の音楽が鳴る。
すぐに田中マネージャーが通話を開始する。
相手はアズキ様の様で、私達にも通話が聞こえる様にしてくれる。
『はろはろ~、いや~、皆の衆、お疲れ。あぁ、マネちゃんには悠月ちゃん、基、紬ちゃんの資料を送ったからさ、後で見といてよ』
「「「お、お疲れ様です」」」
私達の声も聞こえているようで、すぐに返事を返してくれた。
「全く、勘弁して下いよ。まぁ、事前に社長や他の方々に根回しをしていたみたいですから、そこまで文句は言いませんがね。本来は女性中心のグループ枠なのですから、こういったことはコレっきりにして下さいよ」
さっそく田中マネージャーの小言が飛び交う。
『今回を逃したら、本当に逃げられちゃいそうだったんだもん。ごめんね~』
申し訳なさそうなに言いながも、声は明るい。
「あの、悠月……いえ、紬様ですか? その、本当に男の、方なのですか?」
失礼かとも思ったが、どうしても聞きたい事があって。私は思わず訪ねてしまう。
『マネちゃんに送った資料に紬ちゃんの写真が入ってるから見てみなさい。そして、それを見た感想を頂戴ね。共に活動する仲間としてどの程度……その、我慢できるかとか?』
ちょっと不思議な言い回しですね。
「我慢って、男の子でしょう? そんな現実に…………ぶふっ⁉ なるほど」
自分のノートパソコンを開いて、言われた資料とやらを開いたのだろう。
それにしても、何を噴き出して咽ているのでしょう。
「あのマネージャーさん?」
気になって近付いた私よりも先に、もう一人の女の子に横取りされてしまいました。
「なになに、見せて見せて~」
「あっ! コラ、ソフィアっ⁉ 人のモノを勝手に見るな」
フィレナさん――名をソフィア・キャルタットさんです。
金髪の長い髪で背は小さい方ですが、外国の方らしく体型は女性らしく出る所は出ていますし、腰や足は細く引き締まっています。
「…………え? これ、男? うはぁ~飼いたい」
ソフィアさんが子猫でも見つけたかの様な顔になってしまっています。
「コレって子供ん時の写真か?」
もう一人の女性、少しガサツではありますが、乙女な内面もある女の子です。
名前は賀沢(かざわ)晶(あきら)さんです。
古き武闘家の一族らしく、全体根気に健康的な肉体をしています。背も高く凛々しい顔つきで、ちょっと武闘家オーラが漏れ出てしまっているのが難点です。
「いいえ、晶さん。この写真の日付が、昨日です」
『ちなみに、皆と年もそう変わらないわよ~』
この身長で私達とほぼ同い年とは、ぱっと見では分かりませんね。
「それじゃあ、高校生? 嘘でしょ~。コレじゃあ良くって中学生くらい?」
それも低学年と言われてギリギリでしょう。
「比較対処に二リットルのペットボトルに、この熊さんのぬいぐるみが大きいだけ、という事は無いんですよね、錯覚現象的なトリックを使ったとか」
『そのまんま撮ったものよ~。寝てる間にだけどね~』
「はぁ、自分よりも可愛い男ってのは、なんかちょっと凹むな」
紬様の写真を夢中になって晶さんが見ていながら、ため息を一つ。
「そんなこと言って~、晶の事だがら手作りの可愛い服を着せてみたい、とか思ってんじゃないの~。小学校の頃から裁縫部だったんしょ。まぁ、家が武道の家系で男所帯じゃあ可愛らしい服なんて着れなかったんだろうけどさ」
ソフィアさんがからかう様にニヤニヤとした笑みで、晶さんを覗き見ていた。
「なっ‼ 誰から聞いたんだよっ⁉」
物凄く照れながら、ソフィアを振り払って距離を取って警戒モード全開の晶さん。
「えっと、寮生として一緒に住むからと。マネージャーさんから私達のプロフィールが其々に渡されていると思いますが?」
「うげっ! マジかよ。まだ見てねぇ。わりぃ」
「まぁ、引っ越しの準備やら親の説得などで忙しかったですかね。仕方ありませんよ」
本当に面倒でしたが、私は無理やり父を抑え込みましたがね。
「楓も気を付けてよ~、なんか紬っちを囲いそうで怖いから」
「うふふ、そんなことはしませんよ」
やるなら自分の手でしなくては意味がありません。お母様もそう言うでしょうしね。
お婆様に知られたら、全力で囲い込みに走りそうで怖いですがね。
「東方院家の囲い込みって……洒落になんねぇぞ」
「だから、そんなことはしませんって」
やるのなら、私自身の力で徹底的に虜にしなくては、つまらないじゃない。
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