第7話 呪われた新人ちゃん





『色々な表情が多く組み込まれていますね~。アズキ姉さま、頑張りましたね』


 僕の顔を覗き込む様に電脳戦士なお姉さんが動き回る。


『そりゃあもう奮発もんで頑張ったわよ。だってただのゲーム実況と違ってARやVRゲームっていうモノを使うんだから、動画視聴者も色んな表情が楽しめないとね』


 声だけの母さんのテンションが爆上がりで、胸を張って誇らしく語っている姿がもう容易に想像できてしまう。


『つまり、全員分の様々な感情差分の読み取りが可能という事ですか?』


 えぇっと、資料資料……電脳戦士なお姉さんは、キャリ先輩か。


 キャリ先輩が興味深そうに僕を見るのは、そういう意味があったのか。ジッと顔を見られるもんだから恥ずかしくって、さっきから栞ちゃんを盾にして隠れてしまっている。


『もちのろんよ。表情はカメラからの自動読み取り、皆にリアルタイムでお届け出来る様にしてあるからね~。それに、ホラーでしょう、こうやってパニックになったらすぐに自分でなんて弄れないからね~』


 確かに僕は何の操作もしていない。


 僕が動くたびにカメラが自動で僕を追ってくるくらいだ。


「ぼ、僕で実用性を見せるのは、止めてくださいよ~」


 母さん、絶対にカメラやシステムの試運転も兼ねて僕を此処に閉じ込めたな。


 足に繋がれた鎖はある程度は自由に動けるけど、部屋から出られるほど長くない。


「いやいや、この中で一番に表情がコロコロと変わるのはお主以外に居らんよ」


「ねぇ珠音は誰の味方なのさっ!」


 コイツは本当に僕を助けてくれる気が皆無だな。


「え? 誰ってそりゃあ、楽しい方の味方かのう」


 ある意味、母さんと同類だと改めて認識しなければならないようだ。


『ねぇ、悠月ちゃんとタマちゃんは常に一緒に活動するって認識で良いのかな?』


 さっきから僕を抱きしめようと、隙を伺っているライオンの先輩、ミスナ先輩が聞く。


『そうね~、彼等はちょっと特殊な感じになっちゃうけど、基本的には二人で一緒に活動していく方針で間違ってないわよ』


 僕の代わりに父さんが答えてくれる。


『ん? おい、彼女じゃあないのか?』


 王国魔法騎士団という、グドル先輩がちょっと驚いた様子で僕を見てきた。


『おっと、コメントでも多くの人が最速していますね~』


 父さんが何かを覗く動作をして、頷いている。


『なにせ昨日に勧誘が成功したもんだからね。彼自身も色々とパニックなのよ~、あ、ちなみになんだけどね、彼、で合ってるのよ』


 母さんが、笑いを堪えるような声で言う。


『恩霊悠月君です。珠音という女神だか怨霊だかの呪いを受けてしまった子でしてね。神社の再建復興を目的として、この世界に来てくれる事になりました。そして、どんな呪いを受けてしまったかと言うとですね。女体化という女の子に徐々になってしまうというモノだそうでして。彼は必死に頑張らないといけない訳です』


 もう殆どそのままだけど、父さんが分かりやすく説明をして、僕のキャラを紹介した。


『何と言うか、モリモリね~。というかさ、アズキ姉さまが欲しがってる理由が、めっちゃ分かっちゃうんだよね~。こりゃあ確かに連れ込みたくなるよね』


 飛びつこうとしたミスナ先輩の前に割って入るグドル先輩。


 その前にもうウルラさんとファレナちゃんも守る様に立ちはだかっていた。


『おい、お持ち帰りしようと狙うんじゃねぇよ。お前がお持ち狩りしたら事案が発生しちまうじゃねぇか、こらっ! 吸い寄せられるように悠月君に近付くなライオンがっ⁉』


 グルグルと唸る様に、僕を覗き込もうとするミスナ先輩を完璧にブロックしてみせるグドル先輩の動きが凄い。


『でもですよ、アレは反則では?』


 さっきまではただ観察していただけだったキャリ先輩が、涎でもたらしそうな笑みを浮かべながら僕に近付こうとしてきた。


 思わずビクッと体が跳ねてしまう。


『わわっ! こらこらキャリまで引き寄せられないでよ~』


 父さん、ナイスブロックです。


『ユウビちゃん、見えないどいてよ⁉』


 豹変が凄いんですけどこの先輩達。


『先輩たちが早くも悠月ちゃんのフェロモンにやられたねぇ~』


 カラカラと笑いながらファレナちゃん楽し気に言う。


『分からなくは無いですがね。はぁ、大丈夫ですか悠月様?』


 あ、あれ? 何で様付けで呼ぶのかな、栞ちゃん?


『マジでユウビ先輩とグドル先輩が居てくれて良かったぜ。流石にいきなり先輩との対決何てデビューは想像したくねぇな。まぁ、グドル先輩とか強そうなヤツとは戦ってみたいが』


 すっごくウルラさんが頼もしいです。


「なんとまぁ、女子に守られとる姫様じゃのぉ~」


 珠音の言葉が僕の胸に深いトゲをぶっさしてくる。


「お、男だもん」


 悔しいけど、必死に男だとは主張しなくちゃダメだと思い、震えながらも訴える。


『ねぇねぇ、珠音ちゃん? タマちゃんって呼んだ方が良いのかな?』


「なに、好きに呼べばよいぞ。設定資料とやらにはタマで統一されとったがな」


『そうですか……あの、失礼を承知で聞きたいのですが、珠音様は、その女の方ですよね?』


「うぬ、正真正銘の女性じゃな。ちなみに、悠月は本当に男じゃぞ」


『正直に言っちまえば、声を含めて男とは思えねぇんだよな~』


 皆ちょっと酷くない⁉ 確かに男っぽい事はさっきから全然ないけどさ。


「そんなぁ~、どうすれば信じてもらえるの⁉」


 分かってもらえるなら必死に何でもするから教えて欲しいと立ち上がって、泣きそうになりながらも、必死に彼女達を見るが、何故か全員が一斉に僕から顔を背けた。


「ん~、手立ては無いのぉ~。我でも会った時に見た感想は女の子じゃったからなぁ~」


 もう手遅れだとでも言われているかの様だ。


『えっと、もしかして……いえ、会ってからの楽しみにしておきましょう』


『そうだね~、どうせすぐに会えるんだし』


『あぁ、そうだな』


 三人が何かを頷きあっている。


「へっ? あの、どういう、ことです?」


 もしかして、また僕だけ知らない事があるのかな。


『その事も聞いていないのかよ……本当に昨日の今日って感じだなぁ』


 ウルラが可哀そうなモノを見る目で僕を見てくる。


『ふふ、何とですね【エクソシズム】の面々には、事務所が創った寮に住んでもらいます』


 母さんってば、そういう重要な事をいっつも後回しにして教えないんだから。


「えぇっ! き、聞いてないって」


『あぁ、悠月ちゃんは大丈夫よ~。だって寮はすぐ近くにあるんだから』


 ど、どういう事だよ。


『やるゲームがゲームだからなぁ~、特殊環境を用意する必要があるからな。しかし、女の中に男が一人で大丈夫かよ? 何かあったら俺やユウビを頼れよ。通話アカを送っとくからさ、強く生きるんだぞ』


 良心的な先輩が一人でも居てくれてよかった。


「えっと、ぐ、グドル先輩。あ、ありがとうございます」


 グドル先輩の動きが完全に止まった。


『……ぐはっ⁉ こ、コレは――――はっ! まてマネちゃん、俺はやまッ――』


 何か知らないがグドル先輩の姿が吹っ飛んで、急に姿が消えた。


『はいはい~、スタッフさ~ん。グドルの回収をお願いしますね~。あと、悠月ちゃん、お願いだからさ、その天然魅了爆弾を発動させないで。お、お姉さんが心配になる』


 いま、絶対にお父さんって言おうとしたな。


「ご、ごめんなさい?」



『ありゃりゃ、絶対に悠月ちゃん解ってないよ』


『何と言うか、本当に守らなければならない子が出来ましたね』


『あぁ、ありゃあ確かにユウビ先輩が心配になる気持ちも解るぜ』


『やっぱり、私の目に狂いは無かったわね』



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