第3話 呪われた新人ちゃん



「何でもやるって言ってない気がするんだけど」


「そうか? 『何でも良いから、僕はやるよ』。ほら、言ってるじゃないか」


 手品のに様にいつの間にか録音機を取り出し、器用に僕の会話を抜いて聞かせてきた。


「このっ! そのボイスレコーダーをよこせオヤジっ⁉」


 強引に父さんの手を掴んで無理やり取ろうとするが、簡単にすり抜けられてしまう。


「暴力反対~、杏ちゃん助けて~」


「もう、ツムちゃんを弄るからそうなるのよ。ちゃんとボイスレコーダーのデータは分けてあるの? 奪われて消されちゃあいざって時にツムちゃんを脅せないでしょう」


 両親を冷めた目で見つめる僕の隣に、似たような顔で浮いている少女が一人。


「なぁ、こ奴等や本当に主の親か?」


「何時もこんなノリだよ、残念な事にね。まぁ、本当に嫌な事はしてこないけど」


 本当に僕の事を試したり、弄ったりするのが上手い。


「今回は紬の為でもあるんだから、拒否権は無いよ」


「わ、分かったよ」


 そう言われたら、何も言い返せない。


「ということで~、ツムちゃんにはこちらを贈呈します」


「なに、この絵は?」


 可愛らしいキャラが描かれた、一枚の絵を手渡された。


「ツムちゃんがコレからデビューする、ガワの子~。魂はツムちゃんね、こっちの怨霊っぽい人魂ちゃんが、タマが喋れば良いかなって」


「すまぬ。我はこの者が言っている言葉が理解出来ぬのだが、和訳を頼みたい」


「大丈夫、日本語だから。パソコンとかネットも知らないんだから、理解が出来ないのは仕方ないと思うよ、ついでに動画って言っても分からんよね」


 ギリギリ分かってカメラくらいだろうな。


「よう分からんな」


 案の定、珠音は首を傾げて悩んでいる。


 そりゃあそうだよね、見た事も無いモノを想像しろなんて無理だ。


「とりあえず、珠音ちゃんはテレビを見て慣れようか。こっちに来て一緒にビデオでも見ようか、何が良いかな?」


 父さんもそれを察してか、先ずはテレビから見せる様だ。


「ドラマの録画で良いんじゃない? 何なら私のアニメコレクションから選ぶ?」


 物凄い笑顔で自分のお気に入りを進めているのをみて、不安になる。


「頼むからそいつに変なモノは見せないでよ。母さんに毒されたら可哀そうだから」


 まだ普通のアニメなら良いが、母さんの趣味全開のモノは変な悪影響が出そうで怖い。


「あはは、大丈夫だよ。刺激の強いモノは見せないから」


 父さんに任せておけば、まぁ、大丈夫だろう。


「もう失礼ね。私だってそれくらい分かってるわよ。ツムちゃんは任せてよ」


「のう、その……いったい何を見せられるのだ?」


 ギュッと服を握られて、動くに動けない。


「そんな引っ付くなって。別に怖いモノじゃないから大丈夫だよ」


「こ、怖がってないんてない」


 焦って手を放して、頬を膨らませて怒る。


 ……僕もホクト達に起こった時って、こんな顔をしていたのだろうか。


「イチャイチャしてないで、こっちに来て」


「イチャついてない」

「いちゃいちゃ?」



   ★☆★☆



「ちょっとした距離程度なら離れられるのね」


 離れられないって言ってたが、確かにどの距離まで離れられるんだろう。


「それで、僕に何をさせる気なのさ」


「あら、さっきから言ってるじゃない、本当にやって貰う気満々よ。私と劉ちゃんとで作った、このキャラでね。コレが専用端末ね、主に配信時とかメンバーとはこの携帯端末でやり取りしてするんだって、それは予備だけどね。それでこっちがカメラね、センサーが付いてて顔や体の動きを追ってくれるから、使い方は今からみっちり教えてあげる」


 凄く饒舌になってる。マジだ。


「勝手に決めて言い訳?」


 やるにしても個人でって訳じゃ無いだろうし、会社とか大丈夫なのだろうか。


「ふふ、実はそのガワって作ったのは良いんだけど。お眼鏡に叶う子が中々に居なくってね。私も劉ちゃんも色々と悩んでたのよ~。今度の新規生には間に合わないと思ってたの、そしたら、ツムちゃんがタイミング良く大変な事になってるじゃない。だから、色々と協力してあげようって魂胆で、前々から企画していたツムちゃんデビュー計画を今回からしちゃおうかなって思ってね――――」


 マシンガントークで迫りくる、こんな母さんは初めて見る。


「分かった、分かったから止まってくれ」


 もう部屋の隅まで追い詰められてしまっていて、ほぼ壁ドン状態だ。


 何で女性に、しかも母親に壁ドンなんて。嬉しくもなんともない。


「コレから良いところなのに~」


 アレでもまだ話したりなりらしい。


「と、とりあえず、今日は寝かせてよ。あ、明日ちゃんと色々と聞くから」


「あら? 明日で良いの? 大丈夫かしら?」


 何か妙な間があった気がしたけど、気のせいだろう。



「うん、大丈夫だから」



「そう……まぁ、ツムちゃんがそういうなら、分かったわよ。明日が楽しみね」



 ちょっと残念そうにしながらも、口端が少し上がっている気がした。


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