第1話 呪われた新人ちゃん【視点:珠音】



   ====☆★☆視点【狼神珠音】★☆★====




「ぬおぉ~、どうしよどうしよ。ちょっと脅すだけのつもりじゃったのに~」


 確かにずっと力も何もせずにダラダラと毎日を過ごしてきたが、ここまで力の制御ができなくなっているとは思わなんだ。


 流石に死の呪いとかではないから、すぐに何か起こるという事はない。


 ちょっと遊び相手が欲しくて、我の眷属にでもしようとしただけなのだ。


 しかし、強めの神罰を放ってしまった。


 そもそも、お前達もいけないんだぞ。


 神界に帰る為の神具が壊れたというのに、誰も気付かぬし。唯々、崇めて祀るだけでは何も出来ないのだ。そのくせ、我を見ることも出来ぬ輩が多すぎだ。


 神々の言葉も聞けぬのでは、なんの手助けも出来んではないか。


「はっ! 責任転換をしとる場合ではないな。こ奴をこのまま寝かせていたら風邪を引いてしまうではないか、えぇい人間は脆いな」


 どうすればよいか考えねば。


 雨風がまともに防げておらぬこの社では意味がない。かといって我には頼れる友など居らんしな、ずっと一人で居たせいで周りの者達とも疎遠になってしもうとる。


「お~い、紬~、居るか~?」


「どっかで気絶してる?」


「えっ⁉ そこまでホラー系がダメなの? マズッたな」


「後で果歩先輩からコッテリと絞られるな」


「ん~、今回は悪ふざけが過ぎたね」


「はぁ~ったく、度胸くらいはコレで身に付くと思ったんだけおね」


「ダメな人はダメ?」


「アンタね、分かってたなら止めなさいよ」


「大丈夫、その後のケアはしっかりやるから」


「お前に任せると怖いから、俺がちゃんと家まで送るっての……しっかしどこ行った?」


「こ奴の友達かっ!」


 助かった、それならば奴等にコイツを保護して貰えば良いな。


「お~いって……聞こえる訳もないな。ぬ~、どうすれば」


 こういう時に、この体が恨めしいのぅ。神力が弱まってしまっている今では、普通の子らに我の存在を見せることも叶わぬしな。


「どの辺に居そうだ?」


「あっち?」


「ねぇ、毎度毎度さ、思うんだけど……アンタ、なんで紬の場所が分かんのよ」


「…………秘密?」


「沈黙が物語ってんだよ。まぁ、今回はお前が居るから一人で行かせたってのもあるけど」


「犯罪よね?」


「大丈夫、許可は貰ってる」


「誰によ、誰に」


「杏さん?」


「いつの間に紬の母親と接点持ってんの? やっぱ怖いってお前」


「ほんと、好きなモノには手抜かりないわね」


 なんでか分からぬが、こっちに向かって来よる。数は三人か。


 男が一人だけ居るなら、こ奴を安全に運ぶことは可能だろう。


「あの小さめの娘か? いったいどういう能力者なのだ?」


 的確にこ奴の居る場所を掴んでいるのか、真っすぐにこっちに向かって歩いて来ている。


「ほら、居た?」


 小さな娘が我の足元に倒れているこ奴を指さして言う。


「あぁ~、完全に伸びちまってるな」


 駆け寄ってきた男はすぐに無事を確認するように、あっちこっち触っている。


「これっ! 女子の体をそう無暗に触る者ではないぞっ!」


 あまりに自然に触れているので反応が遅れてしまった。


「ねぇ、それが紬じゃなかったら、セクハラで訴えられるわよ。むしろ紬だからセクハラになるのかしらね? クラスメイトが暴動起こしそう」


「あのな何で男同士で触れ合ってるだけで、セクハラ言われにゃならんのだ」


 は? 男、と言ったか。


「ここは安全第一、今は仕方なし?」


「ほら、ここに一人いるじゃない」


「お前は暴動を扇動する側かいっ⁉」


「けど、紬の人気をなめちゃダメ? 男女ともに良く秘密の会合が開かれてるほど」


「俺は絶対にお前らのクラスに行きたくねぇよ」


 え、こ奴は男なのかっ! 見た目は少女にしか見えんぞ。


 男にゆっくりと抱き抱えられている者の顔をマジマジと見つめる。


「ぬ? ん~?」


「あん? 更紗、どうした?」


「なんか、変なのが居る感じがする」


「ちょっと止めてよ。マジで出るのっ! この神社」


「俺には判んねぇ~な」


「早く紬を家まで運ぼう」


 この娘は若干だが我の気配を感じられるようだの。


 それにしても、不思議な道具を持っておる。


 光が強く前に向かって照射されているのに、火が見当たらぬな。


「まぁ、コレで安心――――なぬっ⁉」


 運ばれていく紬と呼ばれた者が離れて行くにしたがって、我の体も引っ張られる。


「なんだ、なんだコレは⁉」


 まさか、我の神罰のせいであの美少年と繋がってしもうとるとでもいうのか。


 いくら頑張って抵抗してみてもすぐに引き寄せられる。


「ぐっ、仕方ない、確かに我の責任も少しは……あるからな。ちょっと憑いて行ってみるのも一興かもしれんな。あぁ、そうじゃ、仕方なく無事かどうかを確かめねばな」



 引っ張られる感覚に抗うのを止めて、大人しく引っ付いて行くことにした。



 我の事に気が付いた小娘の視線が、妙に我を捉えていた気がしたが気のせいだろう。


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