第0話 呪われた新人ちゃん(準備回)



「ねぇ、タマちゃん。何でこんなことになってるのか……聞いて言い?」 


 狼神珠音というのが彼女の名前だそうだ。


 狼の耳と尻尾も着いている小さい女の子。髪質はふさふさで柔らかい。


 遥か昔に、この土地では狼を守り神やら守護神として祀っていたらしい。


「我に聞くなよ、お主の両親に聞け」


「え~、アレに聞くのはちょっと……ヤダ」


 何故かって? 理由は単純だ。


 今の父さんも母さんも、相手にしたくない程にテンションが高い。


「お主の家系は変だ。なぜ女神たる我は子供扱いされねばならん。というか我が見えるならさっさと我が神社の復興をせよ」


 昨日の夜、ホクトに背負われて運び込まれたまでは良かった。


 コイツが居なければ、幽霊でも見て気絶したで済んだのに、家までのこのこ着いて来たのだ。この悪霊(女神様)はどうやら僕に憑いてしまったらしい。


 まぁ、すぐに目覚めなかった僕も悪いんだけど。


「何言ってるの、コレも立派に復興に繋がるのよ。そもそも自分の場所なんだから神様だろうと自分で働いて稼がなきゃね。家には働かない人に渡すお金はありません」


 うん、母さんの言っている事は分かるんだけどね、そうじゃないんだよ。


 というか、むしろこの状況を喜んで受け容れている節があるよね。


「そんな板で何が出来るのだ。我はちゃんとこの土地を守護しておると言うに」


 薄型テレビを板と称するのか、よっぽど外の世界を見てないんだな。


「あぁ、ディスプレイは見たことないか、というかテレビも知らないのか?」


「なんだ、今どきの神様はそんな事も知らないのか? それじゃあきっと驚くな」


 笑い声を上げながら父さんは、何やら機材を並べて準備し始めてるし。


「驚き過ぎて暴れちゃダメよ。あ、声を貰える?」


 母さんが珠音にマイクを向けて言う。


「のう、やっぱりおかしいのじゃ! 崇めたしせぬのか主の一族は⁉」


「はい、ありがとう」


 いや、聞いてあげようよ。ちょっと涙目になってるからこの子。


「大丈夫そうか? 霊体……いや、神体か? 声拾えてるの杏ちゃん?」


 もう二人の世界に入ってしまっている。


 何時も父さんの仕事は何なのかと、はぐらかされてきたけれど。今日ほど知りたくなかったと思った事はないだろうな。


「えぇ、ちょっと心配だったけど拾えてるわね……一応確認の為に、劉ちゃんのお友達に聞いてもらってくれる、私達だけが聞こえてるんじゃあ変な誤解とかされちゃうし。初っ端からトラブルも美味しいけど、やっぱり万全で挑まなきゃね」


 いえ、万全とか良いんで、解放してもらえないでしょうか。


「ほ~い、データ送って~」


 いま現状、僕は逃げ出さない様に足を拘束されております。


 えぇ、自然に見えますがね。ガチですよ子の人達。息子にやらせる気満々です。


「面倒だからUSBで渡すわよ……っと、はいコレから抜いて」


 流れる様に携帯記録端末を投げ渡している。


「…………彼奴等は何をしとるんじゃ?」


 テレビも分からないなら、何してるかなんてさっぱりだよね。


「分からない……訂正、分かりたくない、です」


「知ってるなら教えんか、ズルいぞ貴様らだけ分かってるなんて」


「ほらほら、ツムちゃん。両手を左右に伸ばしてちょっとジッとして」


 小型のカメラを僕に向けて何やら準備が着々と進んでいく。


「ぬぉ⁉ 板の中に人が居るぞ。鏡ではないよな……どうなっとる⁉」


 コレってまさか、ですよね。


 え? 父さんってもしかして、ネットでお仕事してる住人ですかね。


「ねぇねぇ、杏ちゃん。怨魂ちゃんさ、タマちゃんに合わせて動く感じって出来ないかな」


「そうね+、声に合わせて口を動かすくらいなら間に合うと思う。本格的に動かすのは登録者が多くなった時の記念とかで追加で良いんじゃないかな」


 そういえば、母さんはプログラミングが得意だね。


 え、あれ? 僕ってば母さんにも騙されてた? もしかして。


「ぬ? 《怨》って、誰が怨霊じゃい⁉ もうヤダこの一族」


「僕を呪ったんだから、怨霊で良いだろう」


「神罰と言えよ、神罰と。ちょっと加減を間違えただけ、だもん」


「そもそも何で性別を間違えるんだよ⁉」


「五月蠅い! 可愛いかをした主を怨め。それに男はそんな華奢でちみっこくないわい」


「お前もチビだろうが」


「我のは信仰心が減った影響じゃボケナスが! きちんと祀り、崇めるモノが多ければこんな姿でないわい。もっと美しき肉体なのだぞ。好きで童の様になっとらん」


「まぁ、狼の守り神って言われてもなぁ。日本の狼さん守れてないしね」


「あら、でもそれなにり多いんじゃないかしらね。確か神使が狼って神社が幾つかあるし」


「神を虐めて楽しいのか主等は、ぐれちゃうぞ」


「僕にとっては怨霊も悪霊も変わらないから、気にするな」


「撫でるなっ! 慰めるな~~」


 それでも撫でるて慰められるのは、満更でもなさそうだ。


「いや、神様ならこの状況から助けてよ」


「無理じゃ。何をしようとしとるのかは知らんが、我の感が言っておる。流れに身を任せれば色々と好都合じゃとな――痛い痛いっ⁉ 暴力反対じゃ」


 ちょっとイラッときたので、撫でていた手を大きく開き、鷲掴みにしてやった。


「ダイジョブだってば~。悪いようにはならないんだから。それとも……女の子になりたいのかしら? それならそれで私は一向に構わないんだけど」


「杏ちゃんは可愛い娘を欲しがってたからね~」


「全くよ。あの子は何でか生意気に育っちゃったし、生意気にも私より色々と育って大きくなっちゃってさ~。その点、紬ちゃんなら大歓迎よ」


 きっと母さん達に似たんだと思うな。思っても言わないけどね。


「寛容な母親よな」


「慰めるな……母さんの標的はお前も含まれている」


「なぬっ⁉」


「んふふ~、可愛らしい子が増えてお姉さんは嬉しいわ~」


 獲物を狙う肉食動物の様な目で珠音を見ている。


 母さんの方が狼っぽいけど、良いのか悪霊(女神様)よ。


「杏ちゃん、声は大丈夫みたいだよ~。そろそろお披露目会といこうか、いや~、良かったよ。最後の一枠をどうしようかって会社の人達と悩んでたんだけど、まさかこんな近くに居る逸材を見落としてたなんてね。しかも、リアルで呪われた子だよ、もう最高だよ」


「訂正しとかねばな……主の両親は、おかしい」


「はは、なんでこんな事になったのかね」


「そりゃあ、昨日の夜を思い出して見よ。嫌な記憶として忘れたい気持ちは分かるが」


「お前も、その嫌な記憶の一つなんだが?」


「し、知らんな」


「どいつも、こいつも……泣いちゃうぞ」



「ま、まぁほれ。少しは悪いと思っておるから我も此処に居るんだし、許せ」




  ==クソ、あの時にもっと早くに起きていれば。変な話に持っていかれない様に手を打てたかもしれないのに、コイツが余計な事をベラベラと喋るから事態が悪化したんだ。




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