プロログ(後編)
ここまでの道中はボロボロだったけど、意外と鳥居は綺麗に残っている。
「さっさと一周回って帰ろう」
薄暗い道をたどっていくと、すぐに家っぽい建物が見える。
「ありゃ、注連縄はもうダメになっちゃってるよ」
ご神木と思われる一際大きな木に付いていたであろう注連縄は、全体が酷く痛んで地面に落ちてしまっている。
参道を少し行くと手水舎があった。
「湧き水なのか、まだ出てるんだ。でも柄杓が無いな」
水は冷たくて綺麗だ。水盤に溜まったも循環してるのか地面に流れ出ている。
「あれ~、ここの神の使いって居ないのかな? 普通、一使は居るのにな」
懐中電灯であっちこっち照らしてみても、狛犬とか動物っぽい銅像が見当たらない。
参道沿いに進んで行くと、拝殿がすぐに見えるのに。
「それにしても、意外にも大きい神社なんだな」
拝殿があって、更に奥の方には本殿まで見える。
「あぁ~マジか。失敗したな、ちょっとした小さい社があって終わりだと思ってたのに」
いざ来てみれば、立派な神社だった。廃れてボロボロだけどね。
こういうのってちゃんとしてないとダメなんじゃあないの? でも、家って神主や巫女とかの家系だって聞いたことないな。
管理してたのは本家筋の人だったとか……かな? 継ぐ人が居なくなって曽爺ちゃんに権利が回って来たとかかな。
母さんはプログラマーで、父さんは……漫画家? 何か仕事をしているはずだが、何時も教えてはくれない。誤魔化されて話はいつの間にか流されてしまう。
「拝殿は……見るも無残だね」
鈴じゃなくて、何だったか。あぁ、金口だったけかな。
それだけが付いた状態で、それと叩く為の紐はもう床に落ちてしまっている。
周りは落ちばだらけで、拝殿自体も痛んでるのか隙間風で軋む音がさっきから聞こえる。
「倒壊したり、しないよね」
家に帰ったら爺ちゃんや両親に早く伝えた方が良さそうだな。
あまり此処だけ見ても仕方ないから、さっさと本殿の方を見て回ろう。
ちょっとだけ、怖かったから逃げ腰で本殿まで速足で進む。
「これじゃあ本殿の方も……悲惨な状態だろう、な?」
明かりをチラチラ動かして周りを確認していたら、本殿の方から光が漏れてるような気がした。もちろん、周りに灯りは無いし、電気が通ってる訳でもなさそうなのに。
「さては、ホクト達か?」
先回りして僕を驚かす気だな。
あれ? でも此処まで一本道だったし。隠れながら廻って来たんなら多少なりと、人が歩いた跡があっても良いはずなんだけどな。
「まぁ、良いか。お~い、ホクトか? 誰だよ驚かそうとしてるヤツは?」
本殿の方へと近付いて、隠れて居そうな場所にライトを向けるけど、誰も居ない。
以外にも本殿の方は痛みは少ないのか、未だに誰か住めそうなほど立派に建っている。
高床式で柱も腐ったりはしていない。下の方を照らして見ても誰も居ない。
「あれ? おかしいな~」
確かに明かりが見えたのにな。
「誰か居るんだろ~、出て来いよ~」
どっかに隠れたのか、本殿の方を見上げてみる。
「さすがに罰当たりだぞ~、隠れてないで出て来いよ~」
いくら僕が声を掛けても、何の返事も帰ってこない。
「驚かせるにしては焦らせ過ぎじゃないか?」
仕方なにし、本殿の縁側に上がってみて辺りを確認する。
「この状況じゃあ、靴は脱がないよな~。でも、足跡は無いし。何処に行きやがった」
アイツらの事だから巧みに隠れて、驚く僕の姿が見たいんだろうけど。そう簡単に思い通りにいくと思うなよ。いっつも弄られて、可愛がられる僕じゃないぞ。
「ここか?」
大体、光った辺りを探したが居なかったし、やっぱり中に隠れたんだろう。
そう思って僕はゆっくりと本殿の中を確認する為に、戸を開けた。
「騒がしいの~、何じゃいったい」
「…………は?」
「ぬ? ほう……こ奴はもしかして」
僕の目の前に、宙に浮いた少女が居た。
目の前に手を出してきた、左右に動かしたり。自身が左右に動いたりしている。
「やはり、見えとるな」
「………………見えてません」
思考が停止していたせいだろうか、思わず返事を返してしまった。
ここは無視を決め込んで、無かった事にするのがベストな選択だろう。
「嘘はいかんな~、ほれほれ近こう寄れ」
足を確認してみても、しっかりと綺麗なおみ足が見える。
「なにも、ないな」
今更ながらなかった事にして、さっさと帰ろう。
「失礼しま――ほにゃっ⁉」
すぐに踵を返して、逃げよとしたが足が縺れて倒れてしまう。
「ははは、逃がさんよ。茶などないが、ゆらりと話でもしようじゃない」
「ひっ! くるな悪霊」
ふよふよと浮いていた少女が、そのまま引っ張る仕草をすると本殿の中へと引きずり込まれていく。縁側に捕まろうと手を伸ばすが、遅かった。
床を必死にもがくけど、どんどんと部屋の中に引きずられていく。
「誰が悪霊じゃ! こんな可憐な悪霊は居らんじゃろう」
「浮いてる人間だって居ないよっ⁉」
「ぬ、それもそうだな。まぁ、人ではないし。別に構わんじゃろ」
愉快そうに笑って近付てくる。
「構えよ、透けてないだけマシだけど」
「我は妖怪か妖の類かの?」
「ち、近づくな化物」
「ほう、我を化物扱いかえ」
スッと顔を近付けてくる。
そうだ、実体化している幽霊ならば殴れると聞いたことがある。
「このっ!」
流石に女の子を殴るのは気が引けるが、四の五の言ってられない。
「痛っ⁉ 殴ったな! って、触れるのかお主⁉ コレは上々よな」
殴られた事で集中が解けたのか、引っ張られる感覚がなくなった。
「我に暴力を振るった上に逃げるとは、躾が必要かの」
勢いよく立ち上がって、すぐに逃げようとし瞬間にさっきよりも強い力で引っ張られる。
そのせいで踏ん張りが効かずに、少女の方へと体が浮いて引き寄せられた。
「しま、力加減をまちが――ふみゃっ!」
「わわ、体が――わふっ!」
少女を押し倒す形で、僕が覆いかぶさって幽霊の口と僕の口が重なった。
「うわ~ん、僕のファーストキスが悪霊に奪われた」
「…………こんな、辱めを受けたのは初めてだよ」
「お前が変な事するからだろう」
「……ほぉ、我のせいにするか、そうかそうか、ならば――責任を取ってやらねばな」
どす黒い霧が僕を包みこんでいく。
「ひっ! な、なに」
「あっ、しもうた、間違えた」
間の抜けた声が、最後に聞こえた気がした。そして僕は、気を失ったそうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます