第82話 サスルポの巣
案内されたのはどうということのない、少し広めの部屋だった。中には調度品のようなものはほとんど無く、中央に大きな会議卓と椅子が並べられているだけだ?
「ここは……?」
「焼き討ちが未遂に終わったあと、主犯格の人たちとここの生徒を引き合わせた部屋です」
「引き合わせた!? そんな事をしたんですか?」
「はい。そこの…… 賢者アマネの発案でした」
「アタシ的にも、イチかバチかだったんですけどね」
アマネはて手ぐしで髪を触りながら言った。彼女の話によると、双方とも手足に封印を施して過度な動きができない状態にしての面会だったらしい。
「アタシたちがまっとうに賢者なんてやってるのも、最初にこの世界の人達とぶつかる事ができたからだと思うんで……ここの生徒たちにもそれが必要だと感じたんです」
さらにアマネは大賢者ゲンの話をし始めた。オクトに騙されてガズト村の魔石を奪った後、しばらく彼は村人たちから敵意の目を向けられ続けていたらしい。特に現村長のキンダーは最後まで、彼を猜疑の目で見続けたという。
* * *
「キンダー殿の、その目が変わったのが、この洞窟なのですね?」
翌日、ハンシイ姫とフランはガズト山の中腹にいた。案内役は昨日と同じくセンディだ。斜面に露出している岩肌にポッカリと穴が空いていて、そこから湧き水が流れている。かつて転生者たちが「オーク」と呼んでいた魔物、サスルポの巣穴だ。
「はい。大賢者ゲンは、自ら率先して俺を助けに来てくれました。詳しくは昨日お話したとおりですが……」
一日経って、姫と接する心構えができたのか、少年の口調はしっかりしたものとなっていた。
「今となっては、伯父があれほど里の皆さんを敵視したのもわかるんですよ。オレも実際に畑に出て、魔石がどれほど必要なものか知ったから。……それに」
センディは一瞬だけ、口を止めてフランの方を見た。
「それにこれは、賢者の皆さんには話してないんですけど……オレの親父が死んだの転生者のせいなんです」
「え?」
「あ、親父といっても今の親父……村の門番のイーズルではないです。オレの実の父親……顔も殆ど覚えてないんですけど。オクトより前にやってきた転生者のパーティーを案内して、西の山の古城に行ってそのまま戻ってこなかったそうです」
「古城というと……あの?」
村を訪れる時に馬車から見た、山の上に影を思いだす。魔王の眷属が住み着いた、主のない城……。
「転生者達は、崖から転落して死んだと言ってたそうですが、そんなヘマをする人じゃなかったそうです……。だから大人たちは、連中が魔物に負けそうになったて、親父を盾代わりにしたんだと噂してました」
ありえない話ではなかった。オクトたちがあの城で戦ったというケルベロスタイプの魔獣とは、フランも一度戦ったことがある。SSRスキルを持っていたゲンや百戦錬磨のオクトたちなら余裕で勝てただろうが、並の転生者なら手こずるような相手だ。
形勢不利と見た転生者が、案内人を生贄にして尻尾を巻いて逃げるという構図は、容易に想像できる。
「実の親父と、伯父、それに今の親父は親友同士だったそうです。そんな間柄の人間を殺した転生者。疑いの目で見るのは当たり前です」
さらには、そんな親友の息子であり、自分の甥でもあるセンディまでもが転生者に関わったばかりに、この巣穴までさらわれた。キンダー村長はその時、どれほど思いつめていただろうか……。
「けど、キンダー殿と大賢者ゲンは、いまや友人という間柄にある……」
「はい。この巣穴で、あの人が俺を助けるために戦ったといいうのも大きいでしょう。けど、何よりも大賢者ゲンが、伯父と同じ目線で、率直に思いをぶつけたのが大きいと思います」
そして、それがあったから賢者アマネもあの部屋で、焼き討ち犯と転生者を引き合わせたのだろう。彼らは、同じ目線で、同じ言葉で、この世界の人々に思いを伝え続けた。
賢者たちが、他の転生者たちと決定的に違うのがそこだったのだ。
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