第52話 口頭試問(3)

 ひとつ、転生者とはなにか?


 ひとつ、魔王とはなにか?


 ひとつ、神とはなにか?


 どれも今リョウとオレが口述した中に含まれている問いだ。であるならば、また同じ答えを述べるのは間違いだ。オベロン王は、自分が記した歴史書に答えはないと言っていた。


「それは……」


 リョウが口ごもる。歴史書の内容も、図書館に収められているおびただしい数の専門書の内容も、もちろん全て頭の中に入っている。しかし、そのいずれも答えではないとするならば……


「どうした、答えられぬか?」


 オレは意を決し、前へ一歩踏みでた。


「恐れながら、オレの頭の中にひとつの解がございます」

「ほう?」

「俺の考えが正しければ、3つの問いの答えには繋がりがあります。ですので、今からオレが話すこと全てが、3つの答えそのものであり、それを分割することは出来ません。よろしいですか?」

「……良いだろう」


 オレは、この世界の言葉、学問、そして摂理そのものに対する最後の戦いの口火を切った。


「まず転生者の正体……これはオレ達が身をもって体験していることです。つまり、ここではない別の世界で死を迎えたものが、その姿そのままにこの世界に生まれ直すこと。両親を持たず。大人のままこの世界に生を受ける、世界の孤児といったところでしょうか」

「ふむ」

「転生者の強みは、生前の……かつての世界で身につけた知識や能力を、そのままこの世界で振るえる事です。さらには『スキル』とよばれる、何らかの超常的な技能も身につけております」


 オレたちが元の世界で親しんだ言い方をするなら、「強くてニューゲーム」。それが転生者の本質だ。


「だからこそ、転生者たちはこの世界の普通の人々には出来ない偉業を達成してきました。つまりそれは……魔王の討伐です。人間族の宿敵である魔王の侵略を幾度となく退け、いつしか『転生者』という言葉は『勇者』『英雄』と同義となりました」


 ここまで話して、一度息をつく。すかさず、フェントがオレに水の入った杯を差し出してきた。オレはそれを受け取り、一気にのどに流し込む。


「しかし、何度となく魔王は蘇ります。偉大な三人の転生者が集った三英雄時代も、世界帝国を打ち立てた現王宮も、魔族との完全勝利を成し遂げていません」


 さてここからだ、ここからはオレの仮説。何度も否定を試みたけど、どうしてもこの結論に至ってしまう。事実ならば、認めたくない恐ろしい仮説だ。


「それはなぜか。魔王が夜の神ウィーの加護を受けた、夜の領域に住む存在だからです。しかし、ウィーの加護が及ぶ夜の領域とは、決して時間的な概念を指すだけのものではありません」

「ほう?」


 王は興味深げに、身を乗り出した。その反応。やっぱりなのか……?


「オレやリョウが生きていた元の世界では『闇』という言葉を、悪いもののたとえとして使っていました。社会の闇、心の闇といった感じに、です。この世界でも似たような傾向があるようです。つまり夜の神ウィーとは美しく静かな、日没後の時間帯を司るだけではなく、悪の心も司っていたのではありませんか?」

「…………」


 王は何も言わず、じっとオレの顔を見ている。


「そして、歴史上の転生者たちは決して聖人君子ではありません。むしろ、残虐な命令を平然とおこない、名声のために悪行もいとわず、時には卑劣な謀略で他者を陥れる、悪人と紙一重の存在かもしれません」


 信長も、ナポレオンも、曹操も善人だったら決して歴史に名を残さなかったろうし、神官たちから召喚もされなかっただろう。


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