第53話 口頭試問(4)そして…

「つまり魔王を倒されるのとほぼ同時に、強烈な悪……つまり夜の世界の眷属が生み出されていたのではないでしょうか?」

「すると君は……魔王の正体は先代の転生者である、そう言いたいのかな?」

「転生者がそのまま魔王になるとまでは言いません。けど、先代の転生者の冒険のどこかには、必ず次の代の魔王が生まれる原因が含まれていたと考えています」


 オレがそう考えるもう一つの根拠がある。オレは王の横の立会人に視線を向けた。


「そこに立つ戦士・灼炎のシャリポは初めてオレたちに会った時に、オレたちのことを『ダンマルダー』と呼びました。その頃、この世界の言葉を殆ど知らなかったので『魔王マルダーと戦うもの』という意味なのか、などと考えてました」


 しかし、現実は違った。その後、多くの本を読んだけど「戦う」や「対抗する」という意味を持つ『ダン』という言葉に巡り会えなかった。


「この世界の言葉では、過去形は動詞の前に『ダマ』を、未来形では『パラ』をつけますね? この『ダマ』という言葉の原型が、北の大陸で書かれた古い書物に残っていました。北の大陸の古語で『ダーム』は古いものを指す言葉であり、短く『ダン』と発音することもあったようです」


 そして恐らくシャリポはこの都ではなく、北の大陸で生まれ育った。本人から聞いたわけではない。だが寒い土地では人を温め、氷の魔族を打ち払うために灼熱系の魔法が発達していると、図書館の文献に書かれていた。


「こんな事、当然人間の書いた本には残されていません。もしかしたら人間は何も知らないのかもしれない。けれどあなた達は、それを知っていた。だから『過去の魔王』を指す古語を用いて、オレたちを見下していたのではないですか?」

「……その事を知っているのは」


 王は重々しく口を開く。


「ギョンボーレ族でもごく僅かだ。王族に近い位のものが秘伝として教えられる。我々が、歴代の勇者や英雄を補佐していたのも、少しでも魔王の萌芽となるものを排除するためだった」


 やっぱりそうだったのか。ならばこれから話す、神に対する考えも恐らく当たっている。


「今話した通り、夜の神ウィーは悪も司る神です。それに対し人間を守る善なる神は、『聖神ティガリス』と呼ばれます。そしてこの二柱の神とは別に、ティガリスの妻、空の神エナウリ。彼らこそが、一番最初の転生者だった。これがオレの考えです」

「…………」

「さらに言うと、恐らくティガリスとウィーは同一人物。彼の善い行いを神格化したものがティガリス、悪しき行いの神格化がウィーでしょう」

「なるほど、ならばエナウリは?」

「彼に付き添った恋人、あるいは妻。その理由は『空の神』という二つ名からです。空は、常に昼と夜に付き従います。昼の領域では、太陽を掲げ大地に恵みをもたらし、夜の領域では宝石のような月と星をちりばめ人の欲を掻き立てる。昼を昼、夜を夜たらしめているものは空だと言っていいかもしれません」

「なるほど。それでは、君たちがかつて済んでいた世界には、ティガリスやエナウリのような人物がいたのかな? ノブナーグ王のように」


 オレは黙って首を横に振る。それらしき名前の偉人は多分、いない。


「オレたちの世界にはいないでしょう。けど、他の世界にはいたかも知れません、例えば初代オベロン王のように」

「!?」


 王の顔色が変わった。さぁ、ゴールまであと少しだ。


「オレたちは歴代の転生者の名前をすべて調べました。そして、全員がオレ達の世界から来たわけではないことを知りました。これは、オレたちの世界以外で生まれたものが召喚された事を意味します」


 あのクソ女神は、最終戦争ハルマゲドンで滅亡した世界があると言った。死後の世界にいくのもこの世界に転生するのも、オレたちの世界の住人だけではないということだ。


「そして彼らは、オレたち通常の転生者とは違うことが出来たはずです」

「違うこととは、例えばどういうことかね?」

「自然をコントロールする魔石という装置の生成、多文化間の意思疎通を可能にする《自動翻訳》スキル。そして何より……死者を任意の世界へ送る転生というシステム……」


 そう。ギョンボーレ族はこれらのシステムの管理を神より託された種族なのだ。だから王は《自動翻訳》が使えるし、歴代の戦士は魔王との戦いに参加した。そして世界の行き来も可能なら「オベロン」の名が俺達の世界の伝承に残っているのも、おかしくない。


「よろしい、合格だ!」


 オベロン王は玉座から立ち上がると、オレとリョウの前にひざまずいた。それにならいフェントや五人の書記官、シャリポまでが同じように頭を垂れる。


「これまでの非礼お許し下さい。大賢者ペルタスカンタゲン、大賢者ペルタスカンタリョウ。あなた方は今や、この世界最高の大学者にして、真の転生者にございます」


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