第51話 口頭試問(2)

 王の間。中央の簡素な玉座にはオベロン王が座り、その横にはシャリポが試験立会人として立つ。そしてオレとリョウの横には、同じく立会人のフェントが。さらに、双方から少し離れた場所に机が置かれており、書記官と思しきギョンボーレの民が五人、ペンを構えていた。


「それでは、始めたまえ」

「はっ」


 王のひと声で、口頭試問は幕を開けた。


「まず、この世界の歴史について述べさせていただきます」


 リョウがこの半年間で頭の中に入れた幾年月もの記録を一から口述する。

 原初、この世界は過酷な自然が広がり、か弱き種族である人間はその脅威に怯えながら暮らしていた。

 そのさまを見かねた聖神ティガリスは、人と大地を調和させる力を持つ石、『魔石パスタンテール』をもたらした。魔石により穏やかな環境を手に入れた人間は、農耕と商いを始め、人の集まりは国へと発展していった。


「リョウ。君は今、聖神の名を出したね。それに関して付け加えることはないかな?」


 王は穏やかな声で尋ねる。


「はい。聖神ティガリスは、空の神エナウリと夜の神ウィーの間に生まれた子供。そしてティガリスとウィーは相争うこととなります」

「それはなぜか」

「はい、人間は聖神の子、魔族は夜の神の子だからです」


 魔石によって人間は栄えた。それまで昼の世界の住人であった人間は、繁栄に伴い夜も活動するようになる。そしてそれは、夜の眷属である魔族の怒りを買った。以来、魔族の王、すなわち魔王は人間に対して飽くなき戦いを続けることとなる。


「では別の質問だ。人間は聖神、魔族は夜の神を親とする。なれば、我々ギョンボーレは如何?」

「は。エナウリの妹、空の神エナウリが、智を司るものとして風の中から生み出しました」


 3つの種族は、元をたどっていけば親戚関係にあるわけだ。このような具合で、リョウが世界の歴史を述べ、要所要所で王がそれを止め、質問を行う。そんな流れがひたすら続いた。数時間かけてようやく先史時代の口述が終わり、ついに人間が魔王に対して最初の完全なる勝利を収めた聖神歴元年に到達する。


「原初の勇者ラスターが、魔王ヂュバスを倒したとき、魔王の拠点はいずこにあった?」

「東の大陸、中央山脈の奥ふかくです」

「その後、そこはどうなった?」

「ラスターの騎士の一人、ザムア・オベロンが所領とし、後にそこにギョンボーレ族の都を築きました。つまり、ここです」


 オベロン王の名は、ギョンボーレの王位継承者に代々つけられるものだった。その語源は地の神グーキュラが我が子にかけた「アルビリア立ちなさい」だという。

 以来、歴代のオベロン王は、人間族に有効的な立場を取り、一族の戦士を魔王との戦いに派遣している。


 そこから先は、人間族と魔族の果てしない戦いの歴史だ。人間の手が及ばない地域、つまり夜の神ウィーの領域に強い力を持った魔族が現れ魔王を名乗る。魔王は近隣の人間領域を蝕み、それは次第に戦争へと発展していく。そして人間族の神官は、異界より英雄、あるいは勇者などと呼ばれる転生者を召喚する。転生者は、魔王を打倒し、新たなる王朝を興す。やがて、別の夜の領域に新たな魔王が生まれる……


「その流れが変わるのは?」

「はい。魔王タールヴと相打ちになった勇者フィスの弟カルムが、3つの大陸にわたる広大な版図を持つ国、すなわち今の王宮を築きあげてからです」


 世界国家である現王宮は、全世界の夜の領域に責任をもつこととなった。それは常にいずれかの地域で魔王が誕生する可能性があるからだ。事実、現王宮12代の歴史の中で魔王の復活は4回起きている。が、王宮は勇者に玉座を明け渡すのではなく、王族に取り込むことによって、政権は維持されている。


 ほぼ丸一日かけて、オレとリョウは本の内容を完全に詳述し終えた。顔は脂汗でじっとりと濡れ、身体はふらつく。シャリポやフェント、五人の書記官たちも同じような状態だ。

 そんな中で、王が口を開く。


「それでは先に話していたように、最後に3つの問を出す。

ひとつ、転生者とはなにか?

ひとつ、魔王とはなにか?

ひとつ、神とはなにか?

答えたまえ」

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