第47話 近況報告
「で、今どこまで進んでるんだ?」
図書館の中央ホールに巡らされた渡り廊下からは、外のバルコニーに出ることが出来る。オレは夕食の後、シャリポに誘われて夜風に当たりに来た。
谷底の都は月光に照らされ、白い石で作られた建物の屋根が発光しているように見える。
「今の王宮が成立したあたりだ」
「ということは、魔王タールヴの討伐まで来たんだな。あの戦いには我が王も参加していた」
タールヴ討伐は聖神歴423年、つまり今からちょうど120年前の出来事だ。ここまで歴史書を読んできて分かったことだけど。ギョンボーレ族の寿命は人間の2~3倍はある、このあたりも、オレ達が慣れ親しんできたエルフ族に似ている。
「その後さらに4回魔王が出現している。その上、討伐戦争は複数の大陸に及ぶ規模になり、複雑さが増している。あと20日でそれを読み終えることが出来るか、見ものだな」
解読に協力的なフェントと違い、こいつはオレたちの仕事の失敗を期待すらしてるのかもしれない。そんな口ぶりだった。
「歴史の書は、我が王が心血を注いで編纂された偉大なる智の結晶だ。ダンマルダーごときに読みこなせてたまるか」
「上等だ。やってやるよ」
売り言葉に買い言葉。挑発に乗るように口から出てしまったが、実際読みこなさなければ、あの村が滅ぶ。魔石を手に入れるためにもやるしか無い。
「ところでお前、なにしに来たんだ? そんな嫌味に付き合うほど暇じゃないんだが」
「そうだな、まずはガズトの村の近況を知りたかろうと思ってな」
「えっ!? みんな無事か?」
「安心しろ、あの門番二人と、お前たちの仲間の女が村を守っている」
アマネと、キンダーとイーズルの顔が浮かぶ。もう半年近く会っていない。
「特に女は、お前たちに置いていかれたのにご立腹だ。早く戻ってきて、追加した言葉の知識をよこせと言ってる」
「ふざけるな。アイツをここに連れてこなかったのはシャリポ、お前だろ?」
「ふ…… そういえばそうか」
村での翻訳作業ではアマネは特に意欲的に動き回っていた。歴史書の解読に加わってくれていたら、どれほど助かっただろう。
ともあれ、あいつらが無事なのはよかった。ただ問題は……。
「で……魔石の影響は?」
「徐々に大地は蝕まれている。今年の収穫は無事に済んだが、来年の植え付けがうまくいくかはわからん。川の下流の長雨はまだ続いていて、巨大な湿地帯になり始めている。これ以上進んだら、疫病の温床になるかもな」
そう語るシャリポの口調は他人事のようだった。
「お前な……。そもそもお前が、原石を渡してくれればそんなことには……」
「そもそもの話をすれば、貴様の軽挙のせいではなかったのか?」
「く……」
オクトたちとの一件を突きつけられればぐうの音も出ないのが、オレの弱点だ……。
「それにな、あの村はまだマシな方だ。私は、世界中の魔石を保護して回っている。お前たちと遭遇した時から王に与えられた使命は変わっていない」
「……てことは、他の地方の魔石も転生者が荒らし回ってるのか?」
「酷いものだ……」
シャリポは吐き捨てるように言った。
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