第48話 オクトの悪業



「オクトとかいう転生者ダンマルダーの頭目が、千の魔石を集めることを宣言し、世界中に部下を派遣している。西の大陸では、交易の拠点だったオアシスが砂に埋もれて消えた。北の大陸では、町や村が次々と氷河に飲み込まれ、人の住む土地ではなくなっている。今や魔族の攻撃よりも被害が大きいかもしれない……」

「オクトが……?」


 あの男がそんなに力をつけているのか? しかし……千とはあまりに多すぎる。どれだけの村や町、自然が犠牲になるのか検討もつかない。


「シャリポ。オレたちは、歴史上の転生者たちに比べて非力な存在だ。過去に神官たちが召喚した偉大な軍人や武人ではなく、何の力も持たない普通の人間だからな。だからオレは、連中が魔石を武器に用いるのも、わからなくはないんだ」


 シャリポの目がギロリとこちらを向く。ダイレクトに殺意をぶつけるような険しい目つき。思わず、オレの身体はこわばる。


「まてまて、誤解するな! だからといって魔石を奪うことに賛成しているわけじゃない!! ……むしろ不思議なんだよ。確かに非力だけど、千個の魔石がないとノブナーグ王との差が埋まらないとは思えない」


 織田信長だって、ナポレオンだって、曹操だって、人間だ。偉人であっても、超能力者やスーパーヒーローじゃない。オレたちとの差は、頭脳や思考法、そして精神力でしかないはずなんだ。


「例えば今回の魔王は、それほど強大だったりするのか?」

「いや、それはない。私は30年前の魔王ギトの討伐に参加している。単純な強さでいえば当時の魔王軍のほうが上だ。今回の魔族は全世界的に出現しているのが特徴だが、個別に見ればそれほどの驚異ではない」


 想像していた答えと同じだった。思えば、オクト一行と一緒に討伐した三つ首の獣ケルベロス。転生してきたばかりのオレが戦いに参加できたのだ。魔王の下僕ってそんなものなのか? そんな疑問がオレの頭の片隅に残っていた。


「なら、考えられることは一つだ。オクトの目的は魔王討伐じゃない。その先だ」

「……お前もそう思ったか」


 歴史書を読んで知った事実。魔王討伐を終えた歴代転生者たちの後半生で最も多いのが、支配者になることだ。ある者は国を興し、ある者は当時の王宮に婿として入り、ある者は都市国家の執政官に任命される。これは見方を変えれば、彼らの生前の職業に戻ると言ってもいいかも知れない。

 対して現代の勇者であるオクトとその一党はどうか? 為政者のノウハウなんてあるはずがない。ならば敵対する者を押さえつけるしか無い。その時、必要になるのは……強大な力だ!


「だから私は出来る限り多くの魔石を保護しておきたいのだが……最近それも難しくなってきている。王宮から、我々ギョンボーレに協力的な大臣の顔が減り、オクトとやらのシンパが増えてきた。私自身、主だった街では懸賞金がかけられている」


 シャリポは小さくため息をついた。


「ゲン……転生者スギシロ・ゲンよ」


 初めてこの男から名前を呼ばれた。


「歴史の書、読みこなせるというなら早くしろ。お前たちが真なる転生者だというのなら、本当の使命はその先にあるかもしれないぞ!」

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