第45話 英雄の資質

「そうか……もしかして」


 アツシの話を聞いていたリョウが、ポツリとつぶやいた。


「リョウ? なんか言ったか?」

「ああ、ちょっと皆に聞きたいんだけど……転生の前、あのクソ女神なにか言ってなかったか?」


 女神にクソを付けるとは……とは思うけどしかたない。オレたち全員、アイツのずさんな転生のせいでいらん苦労を強いられている。クソ女神なのは間違いない。


「何かって?」

「なんでこの世界によこしたかだよ。言ってなかったか?」


――実はね、いつもならこのまま天国か地獄へ送る手続きに入るんだけど、あいにくどちらも今、定員オーバー気味でさぁ……


「言っていた……」


 オレはあの真っ白い何もない空間で起きたことを思い返した。


「定員オーバーだって…! 確か……そうだ、何処かの世界で何かあって、そこの死者で手一杯だって、そんなことを」

「あっ! 思い出した!! 俺も聞きましたよ。確かどこかで最終戦争ハルマゲドンがあったって言ってましたよね!?」

「そう、そこなんだよ! もしかしたら俺たちは臨時の転生者でさ、本当はちゃんとした手続きで呼び出されるんじゃないのか? さ」


 なるほど。そう考えるとスジが通る。死後の世界からの呼び出しなら、戦国時代だろうが魏志倭人伝だろうが、どの時代の人間でも呼び出し放題。けど今、あのクソ女神が管理してるらしい転生システムは臨時のものなので、別の世界で死んだ人間をそのまま連れてきている。


「それならば、オレたちみたいな無名の人間ばかりこの世界に送られてるのも納得がいきます」

「いや、まだだめだ」


 マサルが首を振る。


「それだけなら逆に、俺たちしか来てないのがおかしいだろ。1日に死ぬ人間なんて何千人も……いや、地球全体で見たら何万人もいるじゃないか? それが全員、こっちの世界に来てるとは思えねえ」

「いや、それについては思い当たることがあるぞ」


 今度はアキラ兄さんが口を開く。


「俺は足場職人だったんだがよ。あの日、後輩が足を滑らせたのを助けて、自分がバランス崩して落下しちまったんだ。お前らも似たようなことやってないか?」


 やってる。俺は横断歩道でおばあさんをかばってクルマに……。


「僕はネコです。子猫が木から下りれなくなってて、それを助けようと木に登ったら頭から落ちちゃって……」

「俺は爺さんだ。台風が来ててさ……腰が悪いのに田んぼ見に行くって聞かねえから代わりに行って……」

「あー……オレは直の死因じゃないんだけど、死ぬ直前に募金したんだよな。ハルマ、時期的にたぶんお前が死んだ台風の義援金だ」

「オレは確証はないけど、ドナーカードだと思う。お前らと共通点があるとしたら、きっと有効利用されたんだろうな、オレの内蔵……」


 全員、何かしら立派な行いをしていた。それが英雄の資質ありとみなされて、この世界に派遣される理由となったのか。もしそういう事をしていなかったら、ひょっとしたら全然違う世界に送られたのかもしれない……。


「え、ちょっと待って? え? ええ!?」


 マサルが腕組みをしながら、何やら考え始める。


「みんな立派なのは分かったけどさ。てことは俺たちを追放したり、魔石をだまし取っている連中もそんな感じだったってこと??」

「あ………」


 オクトたちの顔が脳裏に浮かび上がる。あの卑劣漢たちが? 馬鹿な……。


「いや、そういうもんだよ人間なんて」


 皆がざわつく中、アキラ兄さんが言う。


「よく、根がいい人、根が悪い人なんて言うけどさ。そんなもの無いって、オレは思ってる。いい事しようが悪い事しようが、どちらも人の本性だ。そのときそのときでブレるのが人間ってもんだ」

「ははぁ……」


 さすが最年長。人生の達人ぽいことを言ってくれる。


「俺たちだって、たまたま苦労したからこの図書館にいるんだ。言葉に不自由せず、強いスキルをもっていて、周りから魔王討伐の期待をかけられていたら、魔石強盗に走っていた可能性だってある」


 ゴクリと生唾を飲み込んだ。そんなはずない! そう反論したかったけど、そういい切れるほどの自身はなかった。

 なまじ強力なSSRスキルを持ってるオレだ。もしあのとき普通に言葉が通じて、『1頭』と『頭1つ』の違いに疑問を抱かなかったら…… オクトについていったかもしれない。後で事情を知ったとしても「やむを得ない犠牲」と割り切ってしまったかもしれない。

 オレは背筋が寒くなるのを感じた。


 

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