第44話 転生の矛盾
「おかしいって何がだよ、リョウ?」
「いやだって……」
「信長とナポレオンと曹操じゃ死んだ時代がぜんぜん違う、そういうことだろ?」
オレはリョウが気づいた違和感を代弁する。
「そうだ、そういうことだ」
「確かに、織田信長は戦国時代の人間。ナポレオンは確か日本だと江戸時代くらいの人間ですよね?」
「曹操なんて、日本だと卑弥呼とかの時代だっけか? 魏志倭人伝って確か関係あっただろ」
全く時代の違う3人が、死後同じ時代に召喚された。つじつまが合わないのではないか?
「もしかして……死んだ時代と転生する時代は一致しないのでは?」
「まさか……」
「そういえば俺、みんなの生年月日知らないんだけど……?」
みんな一斉に、隣の奴と顔を見合わせる。そういえば俺たちはお互いに転生前の事を殆ど知らない。名前と職業と年齢、せいぜいそんな所だ。
例えばリョウはオレの2個上で同じ学生だったと聞いてるけど、それは同じ時代だったことを意味するのか? 昭和40年代や令和20年代の学生だったのではないか??
「いや、それはないだろう」
リョウは首を振りながら言う。
「確かに俺達は互いの生前のことを殆ど知らない。今、生年と没年を確認しあってもいい。けど、少なくとも俺たちは全員、21世紀の日本語で意思を交わすことが出来る。そして、サスルポを『オーク』と訳したり、ギョンボーレを『エルフ』と約することに違和感を持たなかった。これが何を意味すると思う?」
「それは……みんなオークやエルフを知っていた。漫画やゲームや映画で見たことあった…?」
「そうだ。詳しくはわからないけど、ファンタジー作品が一般化したのって平成になってからじゃないか? 少なくともみんな、明治や大正の生まれではないよな?」
確かにそうだ。その辺りの常識のラインは全員、しっかり揃っている。もし生まれた時代が違うのなら、翻訳作業もここまでスムーズに進まなかったはずだ。
「あの僕、ノブナーグ王の話を翻訳しているときからちょっと不思議だったことがあるんですけど……」
「どうした、アツシ?」
「ノブナーグ王は神官に召喚されたんですよね? この神官って誰です? 俺たちが転生したとき、そんな人いました」
「あっ!!」
確かにそうだ! オレが転生したときは、あの女神が光を発して、それに飲み込まれたあと、気がつくと一人で街道のど真ん中に立っていた。
「気がついたら、誰もいない道の上にいたな俺」
「そういえば、僕は一人で山の中に……」
「オレは街の路地裏だ……」
「神官なんていなかったし、召喚されたって感じでもなかったな」
他の奴らも、スタート地点は違えど一人でこの世界に放り出されたのは同じらしい。
「そもそもです。おかしいんですよ。この歴史書には登場する転生者が少なすぎます。魔王が現れた時代に、神官が儀式して一人を呼び出す感じで……どんなに多くてもその時代出てくる転生者の名前は数人なんです」
「それは……歴史に名を残した転生者しか扱われてないだけなんじゃ?」
「たしかにそうとも考えられます。けど……じゃあ逆に、なんで今の時代には織田信長のような転生者がいないんですか? 三英雄時代と同じように、チンギス・ハンやハンニバルみたいなのが来てたっておかしくないでしょう?」
うん、アツシの言う通りおかしい。オレやここにいるみんなもそう。ガズト山に置いてきたアマネもそう。魔石を奪っていったオクトやアグリやジュリアもそうだ。全員、何者でもないごくごく一般的な21世紀の日本人だ。
明らかに、転生のルールが三英雄時代とは変わっているのだ。
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