第43話 来てたんだ……

 ノブナーグ王。聖神歴368年から始まる「三英雄チムセルダー時代・ケロン」の主人公の一人。

 340年頃から活発化した魔族の台頭を食い止めるため、当時の神官が呼び出した転生者だ。セロト地方を支配していた魔族・ケイタムを倒し、セロトの領主となる。その後、周囲の人間国家と魔族国家から包囲網を敷かれながらも、経済と軍事で才能を発揮し、それら敵勢力を全て併合した大セロト王国を打ち立てる。

 オベロン王の歴史書の中には、とりわけ偉大な英雄セルダーと記されている。


「ノブナーグ王の実績とされてるものに"彼"との共通点が多すぎます。例えばコレ、バトレバ港の支配」


 ハルマが語り始めた。雑学王のコイツは、あらゆる豆知識を頭に詰め込んでいるが、特に歴史は得意分野なのだそうだ。


 セロトの領主になった直後、ノブナーグ王は隣国の人間国家ヘンタルに侵攻。が、彼は都を攻めるのではなく、バトレバ港の支配権を奪い取るだけで戦争をやめている。


「交易の重要性を、"彼"はよく知っていました。俺たちの世界の歴史だと、まず地元の津島、上洛後には堺を直轄地にしてます。そして堺には日本中から、あるいは海外からも金と情報が集まりました。ノブナーグ王も同様に、バトレバを中心とした商業政策を進めています」

「戦争のスタイルもそうだな」

「はい。これは星物語にも出てきた有名なシーンです」


 そう言いながらハルマは子供向けの絵物語を広げた。ノブナーグ王は詠唱に時間のかかる大型攻撃魔法に特化した術士を集め、特別部隊を編成した。彼らは、柵に囲まれた即席の砦に布陣し、ギリギリまで敵をひきつけた所で一斉攻撃を行う戦法を得意としたいう。

 この術士隊は、当時非常に珍しい運用だった。術士は通常、将軍や部隊長の補佐役で、部隊の攻撃や防御をサポートするために魔法を使用した。

 これに対して、ノブナーグ王は術士を独立部隊化し、戦局を左右する切り札として運用した。


「魔術師を火縄銃に置き換えれば、まんまアレっすよ……」

「長篠の合戦か」


 "彼"の代表的な戦いだ。日本人なら誰でも知っている歴史上の英雄。歴史に興味がなくても、社会の授業を真面目に受けてなかったっとしても、"彼"の名とこの戦いを一度は聞いたことがあるだろう。


「大セロト王国初代国王・ノブナーグの正体は、織田信長だ……」


 来てたんだ……。今この場にいる全員が、そう思ってるだろう。歴史上のヒーローが、オレたちと同じ転生者としてこの世界で活躍していた。不思議な感動が胸を包んだ。


「じゃじゃ……じゃあ、あとの二人については……?」

「うん……」


 この時代には他に二人の転生者が召喚されている。一人は、ヴェサラ王国の歩兵指揮官で、腐敗していた王族・貴族を粛清しヴェサラ帝国皇帝となったナプーリオ。そしてもうひとりは、ミゼール王国の宰相として辣腕をふるい、政治・軍事・文化にさまざまな革命をおこしたツァツァウだ。

 この3人は368年に三国同盟を結び、ときの魔王マルダーゲザリアを討伐、人の歴史の最盛期を築き上げた。これが「三英雄チムセルダー時代・ケロン」だ。


「ナプーリオはナポレオン……ツァツァウはツァオツァオ、つまり曹操のことでしょうね」


 フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトと、三国志の英雄曹操。どちらも世界史的には信長と同等かそれ以上のビッグネームだ……。


「三英雄時代……豪華すぎるな……」


 信長とナポレオンと曹操の3人が協力し魔王を倒した時代。なんでその時代に召喚してくれなかったのかと思わず思ってしまう。

 あれ……その時代?


「いやだけど、それっておかしくないか?」


 リョウがそう言った。

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