第41話 星物語
魔石から発せされた光が、陽が沈みきった空を満たす。すると、白くまたたいていた星の光が強くなったように見えた。いや、見えたではない。明らかに星の輝きが増している。そして……
「あっ」
誰かが小さく叫んだ。ひとつの星の輝きがぼんやりと形を変え始める。光の玉から、手や足が生え、やがて発光する人間の形になった。手には盾と槍を持ち、頭には兜をかぶっている。兵士の姿だ。そこまでわかるほど、星の光はくっきりとした像になっていた。
そして他の星々も姿を変え始める。最初の星のように兵士の姿をするものもあれば、馬の形をなすもの、あるいはドラゴンのような長い首と尻尾と翼を持つ怪物もいる。そして、星の光が生み出した兵士と怪物は動き出し、夜空いっぱいに大戦闘が始まった。
「これは……」
脳裏に浮かんだのはオレたちの世界の星座だった。たしか、多くの星座はギリシャ神話をもとにしていたはずだ。神話の世界の神々や英雄、怪物が、今もなお夜空を舞台に壮大な物語を演じている……小学校の課外授業で、プラネタリウムを見た時にそんな解説があった。
そうだ! 今見ているのは、あのときのプラネタリウムのプログラムに似ている。星を線で結んだ星座の姿からCGのオリオンやサソリが浮かび上がり動き出す。それと似ていた。
「これは、この世界の神話? もしそうなら……」
はっとしたオレは、胸元をまさぐる。無い。初耳の異世界語をメモるために、メモ紙とペンをもっている。が、今に限って図書館に置きっぱなしのようだ。
「ゲンさん、ゲンさん」
後ろから声をかけられる。振り返ると、アツシが携帯用の墨壺付きのメモ帳とペンを手にしていた。
「大丈夫です、オレがメモしておきます。」
アツシも同じことに気がついたらしい。空ではいつのまにか怪物と兵士の戦いが終わり、王様らしき姿の光が、勝利した兵士をたたえていた。
この星の物語はあの本を読み解くヒントになる。そう直感していた。
* * *
星物語が終わると、祭壇の丘は宴会場へと姿を変えた。祭壇に捧げられていた料理が下げられて、長テーブルの上に置かれる。その周りには果物や
今夜の儀式を執り行ったフェントが、参加者一人一人に果実酒をついでまわり「
ほとんど図書館にこもりきりだったオレたちに、都の住人たちも興味があったみたいで、人懐っこく話しかけてくる。皆、美男美女でフェントと同じように穏やかな笑顔で、オレたちの話に耳を傾けている。
「ゲンさん おかわり どうですか?」
フェントは〈自動翻訳〉を使わず、ギョンボーレの言葉でそう尋ねてきた。
「ありがとう」
オレは杯を前に出す。ギョンボーレの言葉があの村の言葉と思っていた以上に近いことに気がつく。所々、単語や発音が異なるけど、ゆるいスピードならそれほど違和感なく意味を理解できる。
「さっきの ぎしき なんだけど…… あれって この世界の しんわ?」
「はい せいかくには しんわではなく 伝しょう です」
「伝しょう?」
「はい じっさいに あった でき事を 夜空の 星に たくす そういう ならわしが この世界には あります」
実際にあった……てことは歴史そのもの……?
「いいのか そんなものを オレたちに 見せて?」
ノーヒントであの歴史書を読み解くのがオレたちに課せられた試練なのでは?
「みなさんは じぶんの力で 文字を 読みときました 王は そのどりょくに むくいるよう 言いました でも……」
フェントは果実酒の壺をテーブルに置き、手を横に差し出す。
「わたしの 本当のもくてきは 昼に話したように みなさんの心を ほぐすことです」
フェント手を向けた先には、昼間図書館を飛び出したヤツらがいる。みんなアルコールが入って機嫌が良さそうだ。
「おいゲン! ちょっといいか!」
「あ、ああ……」
オレはそちらの方へ歩いていった。
「昼間はその……わるかったな……」
「いや、いいよ別に。気にしてない」
「そうか……えっと……それでさ、さっきの儀式見て思ったんだけど」
「ああ、それなら……っと、悪い。続けてくれ」
オレも思いついたことがある、と言いかけてやめた。多分、考えていることは皆同じだ。
「あの本に即挑もうとするからダメなんだと思う。さっきの儀式の内容をもとにさ、もっと優しい本を探そう。あると思うんだ、子供に読み聞かせる昔話のような本が」
その通りだ。何のために、あの巨大図書館を使わせてもらってるんだ。さっきの星物語を手がかりに、優しい本を探し、それを手がかりにして王の歴史書に挑めばいい。
この夜を境に、オレたちの戦いは新たな段階に入った。
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