第37話 文字の解剖

「よし!じゃあ確実に分かる言葉は、この5文字が『ガズト』、そして地図の上に書かれたこの4文字が『アノア』、そして下にある5文字が『テムア』だな」

「この時点でわかる事がありますね。『アノア』の先頭と最後が同じ文字です、この文字の発音は『ア』で間違いないかと」

「だな。『西テムア』の最後にも同じ文字が使われている」

「それと、これは推測なんですけど……『ガズト』ってローマ字でG-A-Z-U-T、あるいはG-A-Z-T-Oと5文字で書けますよね? で、『アノア』はA-N-O-Aで4文字、『テムア』はT-E-M-U-Aと5文字で書けます」

「えーっと……うん、そうだな」

「てことは、この単語ってローマ字と同じようなルールで書かれてる可能性ありません?」

「母音プラス子音の組み合わせってこと?」

「そうそれ! もしそうなら、だいぶやりやすくなりますよ」

「いいねアツシ、冴えてるじゃん」



      *     *     *



「見て下さい、この章のこの部分! 『ガズト』の文字があります! この章からが、あの村近辺の記録じゃないですか?」

「おお、たしかにそうだな」

「よしゲン、この章を人数分書き写してくれ。ここから先は分担してやったほうが良い」

「オイオイ……簡単に言ってくれるな。30ページくらいあるぞ」

「ならまずは3部用意してくれ。そこからはチームで分担して、各自で書き写す形でもいい」

「見知らぬ文字だ、日本語で辞書作るのとはワケが違う。3部だけでも一晩はかかるぞ」

「まぁ、仕方ないだろ。何にしてもお前のスキルが頼みだ」



      *     *     *



「オラ、起きろリョウ! ご注文の品、3部用意しましたよ」

「んんん……? ん……お、おお! 終わったか」

「ああ、あとは頼む。さすがにキツかった。オレは寝るぞ……」

「おつかれ、ありがとう。アツシ、ゲンを回復してやってくれ」

「はい!」



      *     *     *



「よし。各チーム、ゲンの写本の中から『テデット』を探すんだ。まずは『ガズト』の後ろの1文字か2文字が一致している単語を抜き出せ」

「うわ……ちょっと見た感じでも、結構ありそうですよ」

「だろうな。オレたちが知ってる限りでもトで終わる単語は『ビャギト』、『彼女シャギト』、『彼らミャーギト』、『カラト』、『飲むナート』……ざっとこのくらいある」

「逆に言えば、それらのつづりも芋づる式にわかるってことですよね」



      *     *     *



「おいリョウ」

「ん、どうした兄さん?」

「原本の他の章を見せてくれないか?」

「いいけど……どうして?」

「いや、ホラここなんだが……ここに『ガズト』の文字があるよな」

「うん」

「で、その1行前。ここに『ト』で終わる単語があるんだ」

「これが『テデット』?」

「わからん。ただ、仮にこれがあの村を指す言葉だとすると……ホラ、その間に索引にはない文字がいくつかあるだろ」

「えっと……ああ、たしかに。縦棒と横棒だけで四角や三角がない。他の文字と雰囲気違うな」

「これもしかしたら、数字じゃねえか?」

「数字……? そうか! 村からガズト山までの距離!?」

「だからさ、他の章にも似たような記述がないか見たいんだ」



      *     *     *



「アキラ兄さんが数字を発見した! 縦棒で1~5を記述、横棒ひとつで6を示し、一文字で最大11まで表記している」

「記述ルールはローマ数字と似てますね。確かこの世界の数字は12進数だったはずです、記述ルール的に矛盾はないですね」

「それじゃあ次の段階に進みましょう。例のガズト山までの行き方を記してる文章、だいぶ絞り込めたはずです。これが距離を表す数字と方角。他に、ガズト山へ行くために手がかりになるものといえば?」

「川と道だな」

「ですです! 川沿いの道を進むという、記述になるはずです」

「ってことは、この6つの単語のどれかが、サールタートだな」

「じゃあこれが『サール』ですよ!」

「どうして?」

「『テデット』を見つける手順と同じです。地図の左右の端、『メニマル』『カザウル』と最後の文字が同じなのは、この単語だけです」



      *     *     *



「辞典で、『サール』を調べたぞ。この一文の中に『ジャス』を記述があるはずだ!」

「そうか、川の説明に水は絶対必要ですもんね」

「えーっと、どういう文章になるんだ? 高い所から流れる水……とかそんな感じか?」

「あ、じゃあコレでしょ! ほらここに『アノア』ってあるけど、この場合は『東』じゃなくて『上』って意味じゃないですか?」

「オイその1コ前の単語、『グラド』じゃないか。山の上から流れる水、意味は通じる」

「じゃあ、コレが『ジャス』か!!」



      *     *     *



「う~~~ん、よく寝た……リョウ、何処まで進んだ?」

「……………」

「………」

「ぐぉ~~… ぐぉ~~~……」

「……って、全員寝てんのかよ!!」

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