第27話 赤い熱源
オレが剣を抜いたのを見て、転生者たちが一斉に武器を構える。
全員が戦い慣れしてるわけじゃない。ケガ人もいる。ただリョウを始め、狩猟である程度弓を使える奴はいるし、初歩的な武芸スキルや魔法スキルを覚えている奴もいる。20 対 1、そしてオレたちはコイツを取り囲むように立っている。圧倒的にこちらが有利だ。
「おまえたち そこの サスルポ たおしたの だれか わすれたか?」
サスルポ? 巣に戻ってきた3体の死骸。まさかコイツ一人で倒したというのか? 思わず死骸が倒れている方を見る。3体ともなにか強い炎で焼かれたように、黒く焦げついている。コレほど強力な火炎魔法を使える仲間はいない……うっ!?
「あっ
オレは思わず剣を手放した。見ると鉄製の剣が赤く発熱している。
「うわっ!?」
「アチッ!!」
「ぐぁっ!?」
仲間たちも武器を放り投げる。どれも一様に、赤く熱く、発光していた。
「わがなは シャリポ "あかきねつのシャリポ” いちぞくいちの かえんつかい」
ギョンボーレは右手に赤く光る熱源を発生させていた。炎などではない。まるで太陽を持っているようだ。
「くっ……」
オレは思わず後ずさる。あまりにも熱い。熱源から2メートル離れていても、松明を顔に近づけられるような熱が襲いかかってくる。
「もういちど いう いちぞくの なかま たすけた その れいは いう」
シャリポと名乗った尖り耳の亜人は一歩前へ進む。その熱に
「だが
更に一歩、ヤツは前に出て、オレは後ろへ下がる。後ろ……オレの背中には何があったっけ? 木か? 岩か? 洞窟の入口か? このまま背後の逃げ場を失えば、その時点でオレは焼き殺される!
「あつい おもい するのは いっしゅんだけ すぐに らくになる」
シャリポは熱源を前に掲げた。顔がひりつく。たぶん火傷している。頭から垂れる汗が鼻筋を伝うときに痛みが走った。
ここで死ぬ? ようやく言葉がわかってきて、ようやく村の人たちに受け入れられ、ようやく魔石の落とし前をつけられるのに? あの日、この世界に転生した日に思い描いたような冒険を始める前に……死ぬ?
「さらば」
ジャブ…と足元で音がした。いつの間にか沢に足を踏み入れている。もう後がない。死ぬ。本当に死ぬ。
「ふざけんじゃねえ!!」
俺は身体をかがめて、シャリポの脚に狙いを定めた。スキル発動。低い体勢のままヤツに向かって突っ込む
「ゲン!?」
仲間の誰かが叫んだ。俺の身体は、ヤツの脚に激突する。バランスが崩れる。2撃目! もっと速く!熱源が焼くよりも先に、俺の両腕がシャリポの脚を絡めとる。3劇目の攻撃対象は地面。俺の身体はシャリポの脚を封じたまま宙に浮き上がる。
「なっ!?」
そのまま沢の底が深い場所に突っ込むように2人の身体が落下する。次の瞬間。シュゴオオオッと凄まじい音とともに視界が真っ白にになった。
「霧!? なにが起きたんだ?」
「いや、これは湯気だ。ゲンの奴、相手の魔法を沢の水で消火したんだ……!」
リョウとアツシの声が駆け寄ってきた。俺はザブリと沢から立ち上がる。周囲の白い湯気がゆっくりと晴れる。ヤツは……どこだ?
「わたしの まほうを こんなかたちで ふうじるとは!」
声がする方を振り向く。シャリポも沢に膝まで水がつかった状態で立っている。
「だが つぎは そうはいかん」
再びシャリポの手の平に赤い光が発生する。その時
「やめてくれ!」
キンダーが沢に飛び込んできた。そしてシャリポとオレの間に入る。
「こいつは ほかの てんせいしゃとは ちがう!!」
キンダー!? ずっと俺を嫌い続けてきた門番からの、思いがけない言葉。
「おまえたちは だまされている!」
「ちがう! こいつらは おれたちの たいせつな きゃくじんだ!」
客人。その言葉が胸に深く沁み込んだ。
「シャリポ……」
もうひとり近づいてくる。巣の中で助けた、あのギョンボーレの子供だ。
「シャリポ サント ジャー ミャジト」
「ガル……ダンマルダー ジュン シド! オーベン ジャース テヌトラ」
「タラ ティヌ ドスタ……ミャジト グート カンダル ファ」
「…………」
シャリポの右手から光が消える。そして腕を組んで何かを考え始める。
「……よし ころすまえに おまえたちを ためす ついてこい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます