第25話 ギョンボーレたち

 クソ…… そこにセンディがいるのに……。オレは天井に吊り下げられたセンディを見上げる。


「…………いや」


 そこで気付く。センディを吊っているあの縄まで跳べないか? あの位置からなら奴の頭を狙える。


「リョウ! キンダー! イーズル! やつの ちゅうい ひいてくれ!」

「ゲン! なにか掴んだのか!?」

「ああ。 たぶん、うまくいく」

「よし、お前を信じる!! キンダー! イーズル! やつの あし たのむ」

「わかった!!」


 キンダーとイーズルが同時に飛び出し、サスルポの足を狙って剣を振るう。リョウは弓で胸より上を狙って撃つ。


 ブオオオオオオッッ!!


 サスルポはハンマーを振り回して応戦する。キンダーもイーズルもそれを上手くかわして、攻撃を続ける。よし、あれならヤツもオレに気を回す余裕はないはずだ。


「スキル発動!!」


 オレは地面を攻撃する蹴る。狙うのは2撃目の標的である手前の岩。それもまた蹴り上げる。3撃目は更に高い位置の岩。そして4撃目……


「うわっ!?」


 続けて蹴ろうとした岩が水で濡れて滑る。体勢が崩れる。駄目だ!! 集中力を切らすな!!

 毎晩スキルを使用しているうちに、発動中は時間の進みが遅く感じるようになっていた。その緩やかな時間の流れの中で、あちこちに意識を回せる。集中さえし続けていれば、臨機応変に連撃対象を切り替えることが出来る。

 5撃目の攻撃対象を別の岩に変更。そして6撃目。まだいける。7撃目。センディの縄まであと少し。


「8撃目ぇ!!」


 オレは、左手で縄をしっかりと掴んだ。オレの体重がかかり縄がきしむ。


「うわあっ!!」


 気を失ってうなだれていたセンディが、頭を上げてが叫ぶ。


「気がついたか?」

「え? あれ? ゲン? どうして?」

「説明はあとだ、とりあえずはアイツをなんとかする!」


 オレは剣を握る右手に力を込める。眼下では3人がサスルポを釘付けにしている。今なら殺れる!!


「スキル発動!!」


 〈n回連続攻撃〉 ただし今度は1回攻撃のみ。スキル発動時の集中力とターゲッティング能力のみを利用する。


 オレはサスルポの頭頂に向かって剣を突き出したまま落下する。


 ブハアアアアアアア!!!


 オレの全体重をかけた一撃は、サスルポの頭を貫いた。



      *     *     *



「センディ……センディ……!」


 縄をおろしてセンディを解放すると、キンダーは小さな身体を抱きしめて涙を流した。


「一件落着、だな」

「いや……もうひとりいるだろ。アレは誰だ?」


 リョウはイーズルが縄を解いている、もうひとりの子供を見る。


「こいつは……」


 イーズルが絶句する。


「どうした……? あっ!?」


 オレはイーズルから預かっている松明を動かし、子供の顔を照らした。オレンジ色に光に照らされる、明るい色の長髪。気を失ったままの顔は、驚くほど美少年(あるいは美少女?)だ。そして何より……


「エルフ……?」


 とがった耳。ツヤがあってサラリとした質感の髪の隙間から、ツンと細い三角形の耳が突き出ている。サスルポはオレたちがよく知るファンタジー作品のオークにそっくりだったが、この子はまるでエルフだ。


「えるふ? この こどもは ギョンボーレだ」


 イーズルが言う。ギョンボーレ? それがこの子の種族名なのか? 転生者が抱くエルフのイメージとだいぶ語感が違うな……。


「このせかいには ひと いがいの しゅぞくも いたのか!?」

「もりのおくに すむ まほうを つかう しゅぞく こんな にんげんの むら の ちかく ふつうは いない」


 この洞窟があるガズト山は、村からせいぜい3時間程度のところにある。オレたちの隠れ里よりも近い。


「リョウ!」


 背後で声。アマネが戻ってきた。


「おうアマネ、片付いたぞ。センディも無事……」

「きて!! 洞窟の外!!」



      *     *     *



「なんだこりゃ……」


 洞窟の外には中よりも激しい戦闘の爪痕が残されていた。木々が倒され、地面がえぐれ、その中央にサスルポが3体倒れている。オレたちが倒したのは巣の留守番役だったのか……?

 転生者たちの何人かも負傷していて、アツシが治療を行っている。そして、見知らぬ影が一人……。


「おまえたち わが いちぞく たすけた れいを いう」


 つややかな銀髪の間から突き出た三角形の耳。この人物もギョンボーレエルフだった。

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