第24話 暗闇の死闘

 グハァァァァアアア!!


 オークサスルポが雄叫びを上げる。うっぷ……さっきから漂い始めた臭いが凝縮されたものをダイレクトに浴びる。胃液が逆流しそうになるのを必死で食い止める。強烈すぎる……夏の剣道部の部室にブロック肉1キロを一週間放置すれば、こんな感じになるだろうか……?


 強烈な悪臭に顔を塞いだその隙をついて、サスルポが攻撃を仕掛けてきた。とっさに身体を横に動かして、ハンマーによる一撃をよける。


「うっわっ!!」


 水で濡れた岩盤に足を滑らせて、よろめく。そこにヤツの2撃目がくる。やべぇっ!!


「イェラアアア!!」


 サスルポがハンマーを振り下ろすよりも先。その丸太のように太い腕をキンダーが斬りつけた。


 ブヒィィィイイイイ!!


 サスルポはひるみ、2~3歩後ずさる。その間にオレは体勢を立て直す。


「アマネ!! 外から応援を呼んできてくれ!!」

「わ、わかった……!」


 リョウが指示を出す。悪臭に耐えられず、うずくまっていたアマネは、腕で顔を押さえながら岩のホールから出ていった。ナイス判断だリョウ。彼女はもともと戦闘要員ではない。外に出したほうが、こちらも戦いやすい。


 侵入者の戦意が高いことに気づいたサスルポは、こちらの様子を伺っているようだ。こちらも剣を抜き、弓を構え、戦闘態勢に入る。つかの間、にらみ合いが続く。


「あ……! うえ 見ろ!!」


 何かに気づいたイーズルが、松明を頭上に突き出し、天井を照らした。


「なっ…!?」


 人影だ! それも子供くらいの大きさの影がふたつ、天井に渡された荒縄に縛られ吊り下げられていた。


「センディ!!」


 キンダーが叫ぶ。間違いない。オレの位置からも確認できた。その影の一つはセンディだ。


「ぶじ なのか?」


 オレはイーズルに問いかける。


「ああ サスルポ たべない えもの つりさげて とっておく」


 保存食というわけか。ハンマーを使ったり、荒縄で獲物を囚えたり、それなりに知能のあるモンスターらしい。なるほど、村の子どもたちが言っていたように、熊より強いのは確かかもしれない。


「サスルポ よわい ところ あるか?」

「あたまの いちばん うえ けん させば しぬ」


 脳天を斬りつけろ? いや無理だろ。身長3メートル近い巨体、その一番上を狙えって?


「ぜんいんで こうげきして やつ ころばせる そうすれば あたま ねらえる」


 確かに……けど、剣や弓矢でチクチクやって転ばさられるのか? その前にオレたちがバテてぶっ倒れないか?


「それしか手がないなら、やるしかないだろ」


 リョウは矢をつがえて弓を引き絞る。が、それとほぼ同時に、サスルポがハンマーを振り回しながら突進してきた。


 ブフォォォオオオッッ!!


「やっべ!!」


 リョウは弦から手を離して、その場から横走りで離脱する。数瞬前にリョウがいた場所に擦るぽのハンマーが叩きつけられた。

 ヤバイ……転ばせるどころじゃない。この暗闇の中じゃ、攻撃を避けるだけで精一杯だ。

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