第23話 サスルポの巣

「あれだ」


 ガリファが指差した先には、斜面にぽっかりと空いた穴があった。なるほど、穴からは水が流れ出て、それは近くの沢につながっている。


「たしかに あぶないな……」


 イーズルが言った。サスルポの名は出していないけど、その巣穴の可能性が高いと言いたいのだろう。


 ここに来るまでの間、捜索隊二十数名はガリファを中心に扇形に広がって山を登ってきた。途中でセンディが残した痕跡、あるいはセンディ本人を見つけ出すためだ。

 けど、その思いも虚しく、ここに来るまでにそれらしいものは何一つ見つからなかった。


「中を見に行くしかないな……」

「20人全員で狭い穴に入るのは危険です。チームを分けましょう」

「そうだな、よし転生者組はオレとゲン、それにアマネで入ろう。それと……イーズルと キンダー もついてきてくれ」


 リョウはそう言いながら肩にかけていた弓を外し、いつでも射てるように準備した。オレも腰からぶら下げた剣の柄に手をかける。村人に借りたものだった。

 ペン以外で〈連続攻撃〉スキルを使うのは、オクトから魔石のかけらを奪い取った時以来だ。腕がなまってなければいいけど……一瞬そう思ったけど、強引にその不安を打ち消す。スキル自体は毎日使ってきた。今は、一瞬で数十連撃繰り出せるようにもなっている。剣でもやれるハズだ……!!



      *     *     *



 洞窟の中は案外広い空間だった。ゴツゴツとした岩が奥から流れてくる湧き水濡れて滑りやすくなっている。


「みんな あしもと きをつけろ」


 松明を手にしたイーズルが先頭に立って進む。入り口から少し進んだところで洞窟は大きく曲がり、外の光が届かなくなった。暗闇の中、イーズルの松明と、彼が残した足跡の発光のみが、道筋を教えてくれる。


 上に向かって進んでいた穴が途中で下り坂に変わる。湧き水の出どころはここだった。湧き出た水はすぐに、外に向かって流れる一筋と、奥の方へ流れる一筋に分岐している。


「うっ!?」


 奥から、強烈な臭いが漂ってきた。うまく説明が出来ない、汗臭さと肉の腐った臭いが混じったような悪臭。


「うっぷ……何コレ……?」


 アマネが吐き気をもよおしたらしく両手で顔を塞いだ。


「まちがいない やつの すみかだ」


 イーズルとキンダーは剣を抜く。狭い洞窟内では不利になるので、二人とも槍は入り口に置いてきていた。


 ブオオオオォォォッッ!!


 穴の奥からなにかのうなり声が聞こえてきた。凄まじい轟音が、洞窟の壁に反響しながら耳の奥を襲う。いる。この奥に、サスルポがいる!


「どうする?」


 イーズルがリョウに確認を取る。が……


「きまってる!!」


 リョウが答えるよりも先に。そう言い残してキンダーが穴の奥へ向かって走り出した。


「キンダー、おい!!」


 リョウは慌てて後を追う。オレ達もその後に続いた。


 ブオオオォォォォォン!!


 再び、唸り声。今度はその声の正体がはっきりと分かった。下り坂となっていた洞窟は数メートル先でまた大きく曲がり、その先には更に広い空間に繋がっていた。その空間にそれはいた。


「こいつって……」

「ははっ、まんまオークじゃんか」


 リョウの言う通り、オレの頭の中にも転生前の世界で親しんでいたTVゲームの画面が再現されていた。松明に照らされる影は、よくこの洞窟の中に入ることが出来たなと思うほど巨大だった。3メートルくらいの身長にでっぷりと太った身体、頭は豚によく似ていて、手には丸太を削って作ったような原始的なハンマーを持っている。


 サスルポのその姿はファンタジーでおなじみの悪役・オークの姿そのものだった。

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