第五章 ませき と ほん
第22話 アマネのスキル
オレたちが山を下りて村についたときには、夜も深くなっていた。今から山に入っても何も見えやしない。キンダーは一人ででも行くと言い張ったが、村人とオレたちが必死で食い止め、思いとどまらせた。
「あなたまで なにかあったら アニーラさんは どうなるんです!?」
アツシのその一言が効いたらしく、キンダーはその場に座りこんだ。捜索隊は翌日明朝に出発ということになった。
* * *
「かならず つれて もどる」
翌朝、キンダーは見送りに来たアニーラにそう言った。
捜索隊のメンバーは、オレたち転生者20名の他にキンダーとイーズル、そしてネーランの父親ガリファ。ガリファは息子と狩りに行った時に、その洞窟を見つけ、すぐにその場から引き返したそうだ。
「やまで サスルポや すみか みても はなし してはいけない かりを するものの ちえだ」
どうやら、その洞窟がサスルポの巣だという説明をしなかったようだ。
「サスルポ とても みみ よい じぶんたちの うわさを きくと やってくる」
サスルポという怪物の習性なのか、それともただの迷信なのかはわからない。どちらにせよ彼の息子ネーランは、湧き水の洞窟が何なのかを理解できず、子どもたちに話してしまった……。
村の横を流れる川沿いに北へ進むと、2本の川の合流地点にたどり着いた。そのうちの一本がガズト山から流れてくる。この先が、ガリファの狩場らしい。
「よし、じゃあ山に入る前に全員足を出して!」
アマネが言った。ここから先は彼女のスキルの出番だ。
「〈マーカー〉スキル発動!」
捜索隊のメンバーたちの足が青白く発光する。足自体の光はすぐに消えた。
「なんだ いまのは?」
「キンダー ちょっと あるいてみろ」
リョウに促されたとおり、キンダーは数歩足をすすめる。
「あっ」
イーズルが地面を見て小さく叫ぶ。キンダーも後ろを振り返り、表情を変えた。キンダーが歩いたところに残された足跡が、青白く光っている。
これが、アマネのスキルだ。使用した相手が残す足跡を発光させる。転生者たちが、山深い隠れ里で暮らしていけるのは、彼女のスキルがあるからに他ならない。
「もし私が言葉を話せたら今頃、魔王の迷宮でマッピング要員として活躍できたんだけどねー」
アマネはぼんやりと光り続けるキンダーの足跡を見ながら、ボソリとつぶやいた。
彼女と前に話したことを思い出した。アマネも以前、転生者たちのパーティーに所属していたらしい。けど同じパーティーの女性転生者にいびられ、追い出されたのだとか。
理由はパーティー内での痴情のもつれ。リーダーの恋人の座の奪い……といってもアマネ本人にそのつもりはまったくなかったらしいのだけど……。
「まぁ、巡り巡って、子供の命を助けられるかもしれないんだから、女神様には感謝しないとね!」
「でもよ、アマネ。その女神様が、オレたちに〈自動翻訳〉スキルを渡し忘れてたんだぜ?」
「それも巡り合わせってことだよ。ふふっ」
アマネは、そう言って笑った。
「よし じゃあ ガリファ あんない たのむ!」
「わかった ここからさき さするぽの なまえ くちに だすな」
捜索隊は全員、頷く。ガリファは先頭に立って歩き出した。
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