第20話 きさまの せいだ!!

「リョ~ウ、昨日仕込んだビール出来上がったぞー」

「おお、サンキュー。それも明日、村に持っていくから、荷車に積んでおいてくれ」

「オッケー」


 本日の辞典の加筆分を書いていると、小屋の外でリョウたちの声が聞こえた。明日の交換に持っていく物資の準備のようだ。

 リョウはいつの間にか里のリーダー格となっていた。この世界で誰からも相手にされず、仕方なく身を寄せ合っただけのはぐれ者転生者たち二十数人は、リョウの指揮のもと一つの集団として機能していた。


 狩りで捕らえた獣の肉を村に持っていき、フフッタ粉と交換する。フフッタ粉の3分の2は自分たちの食用に使い、のこり3分の1でビールを醸造する。ビールは村に持って行き、またフフッタ粉や日用品と交換する。

 今や里と村の間には、対等な交易関係が成立していた。そして村を訪れるたびに、転生者たちは新しい単語や慣用句を覚えて帰ってくる。それをオレが辞書に追記する。


 最近では、別の村との交易も始めようという声がある。この里はあの村から半日ほど歩いた山中にあるが、逆方向に山を3つほど越えると海に出て、漁村もあるというのだ。

 漁村と交易を始めれば、魚や塩が手に入る。それに山間の村では使わない言葉を、知ることもできる。


 まだ最低限の言葉しか知らないはぐれ者たち。けどその最低限が、この世界に積極的に関わろうとする意欲に火を付けていた。


「ゲンさん…ちょっといいですか?」


 オレの小屋にアツシが入ってきた。珍しいな、コイツの方からここに来るなんて。辞書の加筆が終わった後は、いつもこいつの小屋に行き〈汎用回復〉スキルで癒やしてもらうけど、今日はまだ約束の時間になっていない。


「うん? どうした、アツシ?」

「実は……」



      *     *     *



「ゲン! きさまの せいだ!! きさまの!!」


 里の入り口は山の獣が入り込まないように簡単な塀と門がある。その外に出ると、真っ青な顔をした男が叫びながらオレに掴みかかってきた。


「お前は……キンダー!! どうして!?」


 村の門番、キンダーがなんでこの里にいるんだ。まさか村からここまでやってきたのか?


「きさまの せい センディ きえた!! アニーラ 泣いてる!!」


 泣き叫びながらキンダーが殴りかかってくる。あわててアツシがオレとキンダーの間に入る。センディが……消えた?  


「ちょっキンダーさん落ち着いて!!」

「ませきは おまえ ひとり さがせ!! センディ まきこむな!!」

「ど…どういうことだキンダー!? 魔石? センディが魔石探しにいったのか!?」


 2日前のセンディとの会話を思い出す。オレを手伝うと言っていた。もちろんオレは断ったけど……ちゃんと8歳の子供が納得するような断り方ができてただろうか……? いや多分あいつは納得していない。だから一人勝手に探しに行ったんだ。


 目の前が暗くなる。すうっと、頭から血の気が引いていくのが自分でもわかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る