第19話 オーバーアクションと顔芸

「フンガー! フンガー!!」

「ギャハハハハ!」


 オレが奇声を発しながら右手を何度も振り下ろすようなジェスチャーをすると、子供達が笑う。やるときは出来るだけオーバーアクションで、表情筋もフル活用して顔芸をするとなお良い。


「ゲン なんなの それ!?」

「だから オレが それを きいてるんだ」

「アハハハハ!!」


 村の子供達はゲラゲラ笑っている。生前にオレがテレビを見ながら馬鹿笑いしていた芸人の一発ギャグ。ノリはアレに近い。

 両手を軽く握り、それを真横にスライドさせて「棒」のジェスチャーをする。さらにそれを掴んで衝くような仕草。そして再度「フンガーフンガー」と腕を振り下ろす。子どもたちはもう大爆笑だ。


「あ ゲン それ」


 ラナという女の子がなにかに気付く。


「やり つくる ひと?」

そう それタヌー!!」


 オレは「YES」と同じ意味の異世界語を叫びながら、彼女を指差す。今知りたかったのは鍛冶屋の存在だ。キンダーたち門番は槍を持っているし、村人の中にはモンスターに備えて剣を所持している人もいる。鍬などの農器具も鉄製だ。けど、それらを作る鍛冶屋らしき人は村にはいない。


「やり つくるのは タラッシュ」

「けん や くわ も?」

うんタヌー!」


 なるほど、鍛冶屋は『タラッシュ』か。オレはペンを取り出し、メモする。


「タラッシュ かー おれは サスルポ かと おもったよー」

「サスルポ? それは なんだ?」

「やま に すむ かいぶつ うで おおきい くまを なぐって ころす」


 なるほど、そういうモンスターが山にいるのか。オレたちの里の近くでは見たことないけど、熊(正確には熊によく似た『ゴラブ』という獣)でもかなわないヤバい奴となると気をつけないとな。オレは、サスルポについてもメモをとる。

 すでにオレたちは「やり を つくるひと は なんて いいますか?」くらいの言葉は話せるようになっている。けど、こうやってジェスチャークイズを出す方が子どもたちからは色々引き出せる。


「ませき さがす とき サスルポ きをつけろ ゲン」


 センディが言った。


「むらおさの はなし きいてたのか」

「うん ませきどうの とびら ひらいてた」


 この少年は、オレに完全になついていて、村に行くとずっとオレのあとを付いてくる。さっき魔石堂に行ったときもそんな感じだった。この子の叔父にあたるキンダーはいい顔をしていないけど、本人はお構いなしだ。


「むらの まわり きけん おおい マナの ばしょ さがす たいへん」

「わかってる けど オレ やらなきゃ いけない」

「おれも てつだう!!」

「えっ? いや いいよ やめろ」


 オレは慌てて首を振る。


「なんでだ? おれ ゲンより このあたりのこと くわしい おとなは はたけ あるから てつだえない けど おれなら!」


 センディはすこし前のめりになりながらオレに自分を売り込んできた。


「おまえ まだ ちいさい アニーラも キンダーも しんぱいする」


 特にアニーラは夫を亡くしてから、センディを溺愛しているらしい。この子を危険に晒すわけには絶対にいかない。それに……


「センディ ませきさがし おれの しごとだ おれは このむらの ませきに……」


 「責任がある」と続けたかったけど、それに相当する異世界語が出てこない。まだ知らない言葉だった。


「どうした ゲン?」

「いや とにかく ませきは おれが さがす」


 こればかりは絶対に人に任せるわけにいかない仕事だ。リョウやアツシにも背負わせるべきじゃない。ましてや、この村の住人に……それも子供にさせてはいけないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る