第18話 魔石堂

「おさ つれてきた」


 オレはキンダーに背中を押されるようにして、魔石堂の中に入った。村長もそれに気づき、こちらを向く。


 魔石堂の中は薄暗かった。初めて訪れたときの昼間の太陽のような光はない。その源である3つの魔石はオクトたちと……オレが持ち去ってしまった。


「ませき みろ ゲン」


 村長が祭壇を見上げる。そこには、オクトから取り返した魔石のかけらがそなえられている。その光はあまりにも弱々しかった。


「つちのませき すこし のこった でも かぜ と みずの ませき ない」


 オレがオクトから取り返したのは「土」の魔石のかけらだったそうだ。のこりの二つは「風」と「水」との魔石だ。


「かぜの マナ なくなる かぜ ふかない あまぐも かわしも に いつづける」


 川の下流では、あのときのような大雨が未だに降っている。風が止まり、あの地域に停滞しているらしい。おかげで街道は使えなくなり、行商がこの村に来れなくなったそうだ。


「みずの マナ なくなる みず よどむ かわの さかな きえた」


 逆に、この村の周辺には二ヶ月間ほとんど雨が降っていない。その上、水の魔石が失われた影響で川の水質が徐々に悪くなっている。

 魔石が失われた直後から、村人たちは用水路を堀り、新しい溜め池も造っていた。が、その溜め池の水から異臭が漂い始め、農作業に使うべきか村人の間でも議論になっている。


「きえた ませき ひとつなら のこりで おぎなえる でも のこったの はんぶん だけ これから つちも くさり はじめる」


すみませんカシュナスム……」


 オレは村長に頭を下げる。


「おまえは この かけら とりかえした そのこと かんしゃしてる けど……」


 村長はオレの肩に手を置いた。


「ふたつのませき つぐなって もらう」

「なんでも します! どんなことも します!!」


 オレは頭を下げたまま言った。この村が危機にある責任の一部はオレにある。何度もオクトを探し出して魔石を奪い返そうと考えた。けど、今の言葉の理解度では見つけるどころか、この世界を旅することすらおぼつかない。そう言われてリョウやアツシから反対されていた。まずは言葉をちゃんとマスターするのが先だと。


 他にこの村を助ける方法があるなら、償う方法があるなら、ずっとそれを考えつづけていた。


「それなら あたらしい ませき さがせ」

「は?」


 オレは頭を上げた。新しい魔石……?


「このむらの まわり どこかに マナ あつまる ばしょ あるはず そこに あたらしい ませき うまれる むかしから だいちは そうやって うまれかわる」


 どこかに新しい魔石が発生している……? それを見つけて保護すれば、この村は生まれ変わる……そういうことか?


「やっ……やります! あたらしい ませき かならず みつけます!!」


 

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