第14話 子どもたちと不審者

 バシャバシャと大きな水しぶきを立てて、子供たちが川で遊んでいる。


「よーし、思ったとおりだ!」

「何がだよ?」


 翌日、オレたちはまた村を訪れていた。ただし、あの門番がいる入り口ではなく裏手側に。


 村は高さ2メートルくらいの柵に覆われ、門番が立つ入り口が唯一の出入り口となっている。ただ、柵は等間隔に立てた丸太に横棒を結びつけただけの簡単な作りで、子供なら隙間から抜け出せる。

 そして柵から抜け出して坂を下れば川がある。あの暴風雨が過ぎ去り、川の流れはだいぶゆるやかになっている。いつもよりやや強いくらいの流れ、子どもたちがここを遊び場にしないはずがない。昨夜たてた予想は、見事に的中していた。


「さて、いくぞ!」


 オレは川原に下りた。子どもたちの一人がこちらに気づき、仲間たちに伝える。水を掛け合うのを止め、一斉にこちらを見てくる。


「トゥキトマ ヤ?」


 一人が、やっぱりなんだかわからない言葉をかけてくる。さぁ、ここからだ。最初は……何がいいか。何か誤解しようがないもの……ああ、これだ!


 オレは川に手をつっこみ石をひとつ拾い上げた。それを子どもたちに見せる。


「ら……ラノ ヤ?」


 沈黙。突然なんだこいつは、という目。ビビるな。押していけ!


「ラノ ヤ? ラノ ヤ!?」


 子どもたちがざわつく。ひそひそと何かを話している。いや、大丈夫だ。いけるはずだ。


「ラノ!! ヤ!!?」


 少し大仰に、左手に持った石を右手で指差しながら、同じ言葉を叫び続ける。すると子供の一人がポツリと言った。


「……トク?」


 きた!!


「トク!! ラノ トク ヤ!!?」


 子どもたちは頷く。よし、多分間違いない。これは『トク』だ。


「ありがとう!!」


 オレは背負っていたカゴを下ろすと、中身の一つ取り出し、その子に差し出した。ここに来る途中に採ってきた木の実だ。直径2センチ位の赤紫色の実。試しにひとつ食べてみたけど、甘酸っぱく子供のおやつには丁度いい味だった。

 子供はそれを受け取るとすぐに口に放り入れる。2、3回噛んで満足そうな微笑みを浮かべると、ペッと種だけ吐き捨てる。


「ラノ ヤ?」


 オレはまた同じように、その木の実を指して聞く。今度は別の子が答える。


「ペペット」


 よし、木の実は『ペペット』だ。いや、もしかしたら『ペペット』という種類の実かもしれない。まぁ、ゆくゆく分かってくるだろう。その子にペペットを渡す。


「ラノ ヤ?」


 次はカゴを指差した。


「アザー!!」


 ルールが分かったのか次は大勢の子供達が一斉に答える。その中で一番早かった子にペペット賞品を渡す。


 こんな調子で、更に4回質問を繰り返した。ジャスワヤァウケルテデット……「草」が「面白い」と同じ『ウケル』なのは偶然にしては出来すぎだろ。


「おっ、おい! ゲン!!」


 リョウが叫んで川下の方を指差す。血相を変えた男が槍を持ってこちらに走ってきた。例の門番の一人だ。


「ジンラータ ミロヴィア!?」


 たぶんオレたちが子どもに危害を加えると思ったのだろう。村の大人にしてみればオレたちは十分不審者だ。今の語学レベルじゃ、弁解も出来ない。


「リョウ、アツシ、逃げるぞ!!」

「お、おい!!」


 オレはそう言って走り出す。リョウとアツシも慌ててそれに続く。


 とりあえず試すべきことは試した。結果は上々だ。



 



 







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