第12話 使えないスキル

「うん、だいぶ調子良くなってきた気がする」


 日が暮れる頃になって、オレはベッドから起き上がり身体の各部を動かした。身体中の打撲や傷、腫れはすっかり引き、痛みや違和感は完全に消えている。


「本当ですか、よかった!」

「アツシの〈汎用回復〉のスキルは回復魔法のような即効性は無いけど、適用範囲が広いんだ。怪我だけじゃなく、軽い風邪や肉体疲労の回復、滋養強壮の効果もある」

「この里の人には、人間エナドリとか人間温泉とか言われてます」


 アツシは苦笑いをしながら頭をかく。なるほど、そう言われてみると身体が軽くなった気がする。


「もったいないよなぁ、せっかくのSRスキルなのに。言葉が話せないばっかりにこんな所でくすぶってるんだからさ」

「いやぁ、どうでしょうね。前に入ってたパーティーじゃ、戦闘中に効果が出ないヒーラーなんていらねえって、追い出されちゃいましたし」

「そりゃ、使い方をわかってないそのパーティーの奴らが悪いんだよ」

「そういうリョウさんだってSSRスキル持ちじゃないですか」

「そうなのか!?」


 オレはリョウの方を向いた。オレの〈n回連続攻撃〉をあの女神はチート級のSSRスキルだと言っていた。同じランクのスキル、一体どんなものなのか?


「ああ、まあな。確かに使えればとんでもない力を発揮する可能性があるよ。使えればな……」

「というと……?」

「フフフッ 聞いて驚けよ?」


 リョウはそう言ったあと、言葉に少し溜めを作った。


「〈書籍投影〉スキル…!」

「投影……?」


 言葉から効果がよくわからないスキルだな。なんだそれ?


「要するに本の内容を人に理解させるスキルだ。例えば、魔術書とか武芸書とかの内容を仲間に投影すれば、それを読まなくても奥義を会得させることが出来るんだ」


 なんだそれ!? 確かに、使い勝手が良さそうなスキルだ。


「ただし前提条件として、その本の内容を俺が理解する必要がある……。一度だけ街のゴミ捨て場に落ちてた古本で試したんだけど、読めない文字の本じゃあどうしようもなかった。ハハっ どうだ、笑えるだろ?」

「まったく、あの女神もそんなスキルを与えておいて、なんで自動翻訳を忘れるんでしょうね」


 なるほど、宝の持ち腐れということか……気の毒すぎる……。


「正直俺もR級、いやN級でいいから、使えるスキルが欲しかったわ。〈魔術素養〉とか〈防御特化〉とか。そうすりゃ、どこかのパーティーに紛れ込めたかもしれないのにさ」

「いやぁ、ダメでしょう。この里にだって、そういうスキル持ちいるけど、みんな結局言葉がわからないって理由で追い出されてきたんですから……」


 そう言いながら、リョウとアツシの二人は自嘲気味に笑っていた。


 時間がかかるけど効果が広い回復スキルと、言葉がわからなければ使えないスキル。もったいないな、使い方次第でいくらでも光りそうなスキルなのに……。


 それに比べたら俺のは、まだ扱いやすいスキルということか。

 〈n回連続攻撃〉……無我夢中だったから記憶がおぼろげだけど、あの時6回連続までいけたハズだ。それも、狙いはオクトじゃなかった。奴の持つ魔石を標的にした「攻撃」。しかも5撃目はダガーではなく、素手で掴むという行為。さらには、最後の一撃は地面を蹴っただけだ。この2撃は攻撃ですら無い。

 女神は熟練次第で攻撃回数を増やせると言ってたけど、それ以上に幅が広い使い方が出来るのかも知れない。


「あれ?」


 そこまで思いを巡らせた時に、頭の中で何かが繋がった。

 

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